地域の課題解決に“伴走”する形でまちづくりを推進しながら、まちの中から変化を生み出す。
そんなスタイルで全国30拠点に事業を展開しているのが、 株式会社FoundingBaseです。
今回は代表の山本賢司さんに、FoundingBaseが考える「まちづくり」のあり方と、その実現を支える事業・組織作り、そしてこれからの地方創生の展望を伺いました。
ゲストプロフィール

山本賢司(やまもとけんじ)
株式会社FoundingBase 代表取締役/CVO(Chief Visionary Officer)
内閣府公認地域活性化伝道師
1986年東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。大学在学中に地域での活動に参加したことをきっかけに、地方の面白さと可能性に惹かれる。
卒業後は独立してまちづくりに携わる。
2014年に株式会社FoundingBaseを共同創業。代表取締役に就任。
2018年から北海道安平町に移住し、現場から全国30拠点の地域共創事業を展開。教育・観光・シティプロモーションなど多分野にわたり、地域と共に価値をつくる事業を推進している。
1.地域共創の原点―大学時代の出会いから始まったまちづくり
吉田(地域ブランディング研究所:以下、地ブラ):まずは、FoundingBaseの概要を教えてください。
FoundingBaseは現在、全国で30の拠点を構え、主に人口5万人以下の市町村と連携しながら「地域共創」に取り組んでいます。
私たち自身が地域に入り込み、プレイヤーとして自治体や地域の方々と一緒に事業をつくっていくことを強みとしています。

吉田(熱意ある地方創生ベンチャー連合:以下、熱ベン):山本代表がまちづくりに興味を持ったきっかけを教えてください。
きっかけは大学時代、慶應SFCで仲間と始めた地域活動が原点です。
僕は東京育ちで地方に縁はありませんでしたが、地域の産業や暮らし、文化を通じて地域に可能性を見出しました。
学生の立場で地域の方々とともに活動する中で、「若者が地域に入り、地域目線で動くことで、新しい価値を生み出せるのではないか」と感じ、志を同じくする仲間と出会ったことで、FoundingBaseの創業につながっていきました。

2.会社としての成長と、理念の進化
吉田(地ブラ):創業当初から地域に根ざした活動を続けてこられましたが、会社として軌道に乗ったのはいつ頃ですか?
最初は「地域で何かできたら」と始めた、 小さな挑戦の積み重ねでした。 その挑戦に賛同してくれる若者が仲間として加わり、各地で活動が広がっていった、というのが立ち上がりのプロセスです。
その後、様々なキャリアやバックグラウンドをもつ中核メンバーが加わったことで、事業スキームの整備や組織づくりが進みました。今では現場で動くメンバーと本部機能が連携しながら、会社としての仕組みを整えつつ事業を展開できるようになってきた感覚があります。
吉田(熱ベン):「地域の豊かさをUPDATEする」というミッションには、どんな想いがあるのでしょうか?
創業当初は「自由をUPDATEする」というミッションを掲げていました。まちづくりに携わる私たち自身の主体的な選択・行動によって、新たな価値を生み出していこう、そんなメッセージです。
ただ、地域に根ざして事業を広げていくにつれ、FoundingBaseが向き合うのは地域そのものの豊かさなのではないか、と考えるようになりました。
そこで、地域がもつその地ならではの価値=地域資源を軸に「FoundingBaseのまちづくり」を再定義し、ミッションを「地域の豊かさをUPDATEする」へと刷新しました。
このミッションには、地域に眠っている可能性を掘り起こし、地域の活力にすることで、経済的な豊かさだけでなく、暮らしや生き方の充足といった多面的な豊かさへとつなげていく、という思いを込めています。

吉田(地ブラ):山本代表自身も北海道・安平町に移住をされているとか。移住はどんな経緯だったのでしょうか?
教育分野での出会いがきっかけでした。
自然を生かした保育に取り組む方と出会い、共感して協働することになりました。
そこから、教育の仕組みをまちぐるみで見直す動きが始まり、僕自身もそのプロジェクトに加わることになりました。
安平町へ移住してからは、現場での暮らしと仕事の双方を通じて、地域の変化をより解像度高く感じられるようになりました。
3.まちづくりを支える6つの事業領域
吉田(熱ベン):FoundingBaseではどのような事業を展開されていますか?
大きく分けると、まちの経済を作る領域と、まちのあり方をデザインする領域で、6つの事業を展開しています。
・「まちの生活基盤となる経済を生み出す」観光・道の駅・ふるさと納税事業
・「まちのあるべき姿・状態をデザインし地域活動を支援する」シティプロモーション・スペース運営・教育事業
この両輪がまちの中で循環する”仕組み”をつくることで、短期的な盛り上がりではなく、持続可能なまちづくりの実現を目指しています。

吉田(地ブラ):現場ではどのような取り組みがあるのですか?
例えば、大分県豊後高田市では未活用のビーチを海水浴場として再生し、”海と過ごす1日”をコンセプトとした宿泊施設を運営しています。
また、京都府宮津市では公共施設を地域の交流拠点となるコワーキングスペースとしてリニューアルし、「GIVE& WANT」という独自のスキームで、地域内の”やりたい”と”できる”のマッチングと地域活動の支援を行っています。
そのほか、教育分野では、高校の魅力化や公設塾での探求支援により、地域学習の充足に取り組んでいます。
いずれの取り組みも「地域資源を生かし、地域価値を共創する」という視点から事業設計している点は共通しています。
吉田(地ブラ):山本代表が在籍する北海道・安平町のシティプロモーション事業 も印象的ですね。
安平町では「日本一の公教育を目指すまち」をスローガンに掲げ、行政と共に子育て世代の移住促進を目的とした広報活動を強化した結果、3年連続で人口の社会増を実現しました。
この安平町の事例から、「地域の価値を言語化(ブランド化)し、その価値に共感する市民とともにまちづくりを推進する」という事業モデルを構築し、他地域にも展開しています。
4.人と組織―多拠点を支える仕組みと文化
吉田(地ブラ):6つの事業を横断して展開されていますが、ここまで幅広く取り組むことになったきっかけは何だったのでしょうか?
もともとは「若者が地域に入って何かやってみよう」というシンプルな思いからスタートしています。
最初から綿密な事業計画があったわけではなく、目の前の地域の方々と関係を築くことを大切にしていました。
必要だと感じたことに一つひとつ向き合っていく中で、自然と事業の領域が広がっていきました。
吉田(地ブラ):まさに、現場から自然発生的に広がってきた形ですね。組織運営はどのようにされていますか?
現在は、各事業ごとに責任者を配置し、事業と組織のマネジメントを担ってもらっています。
私はCVO(Chief Visionary Officer)として、 「FoundingBaseのまちづくりとは何か」という理念のUPDATEや 、その理念を軸にした事業内容の検討を進めています。
地域ごとに条件や課題は異なりますが、共通の理念を土台に、地域で活動する現場の創意を活かす。この両立を大切にしながら組織づくりをしています。
5. 現場と共に育つまちづくり ― 関係構築・採用・信頼の実践プロセス
吉田(熱ベン):地域との関係構築には段階があると思います。御社では最初、どのように接点をつくるのですか?
新規開拓チームが自治体へのアプローチを担当しています。プロポーザルへの提案のほか、電話や訪問で直接課題を伺うことも多いです。
また、マーケティングチームが発信する事業実績や日々の活動レポートを見て声をかけていただくケースも増えています。
吉田(熱ベン):地域で事業が自立するまでの“成功率”はいかがですか?
”成功率”としては数値化していませんが、事業の継続率は着実に上がってきています。
以前は「地域に若者が来てくれた、頑張ってくれた」という状態で終わることもありましたが、今は事業設計の段階で成果指標を明確にし、その指標に基づいて進捗や成果を行政と共有することで、「まちの現在地」を同じ目線で捉えられるようになってきました。
その結果、自治体の方から「継続したい」と言っていただけるケースも増えてきています。
吉田(地ブラ):地域との関わりは平均どのくらいの期間ですか?
まだ創業10年弱の会社ですので、現時点の平均で4〜5年ほどでしょうか。
なかには 、創業当初から関係が続いている自治体もあり、長期的な関わりの中でまちの変化をともに見られるようになってきました。
6. 組織を育てる文化 ― 理念・評価・人をつなぐ仕組み
吉田(熱ベン):自治体と長く関わる中で、人材育成は重要なテーマですよね。採用はどのように行われていますか?
地域活動を推進するプレイヤーは、私たちの事業にとって必要不可欠な存在です。
弊社では年間を通して採用を行っていますが、「特定の事業・自治体のための採用」ではなく、ミッションへの共感を重視した「ミッション採用」を大切にしています。
まちづくりにおいても、必要な知識・スキルは日々変化します。今持っている武器だけに固執するのではなく、ミッションの実現のために自らの知識・スキルを柔軟にUPDATEし続けられるかどうかを重視しています。
吉田(熱ベン):評価制度も年功序列ではなく、役割や成果ベースなんですね。
はい。採用時には、これまでの経歴やスキルを踏まえて適切なステージからスタートしていただきます。
組織における役割や求める成果、必要な成長を上長とすり合わせ、1on1などを通じて目標を達成できるようアジャストしていき、半期ごとに目標達成度や取り組み姿勢をみて評価を行っています。
地域活動は横展開しづらい側面もありますが、事業スキームの共通部分を持ちながら、まち固有の課題に柔軟に対応していくというのが、FoundingBaseの基本的な事業の考え方です。
そのため、事業や組織の枠を超えてプロジェクトを推進したり、ナレッジを共有したりするシーンも多く見られます。そうした横断的な動きを生み出したり支えたりできるメンバーが評価され、より大きな役割を任されていく構造になっています。
正当な評価と適性配置が、個人と組織双方の成長にもつながると考えています。
吉田(地ブラ):全国に30拠点あり、しかもリモートでの組織運営となると拠点最適になるリスクもあります。組織の一体感をどう保っていますか?
拠点が分散しているからこそ、「ミッション・ビジョン」の共有を徹底しています。
半期ごとのキックオフでは必ずミッション・ビジョンの共有からスタートしますし、事業ミッションや戦略を語る際にも、会社のミッションとどうつながっているのか、日々の活動がミッションにどう紐づいているのかを振り返る機会を意識的につくっています。
メンバーが集まる合宿なども企画し、理念と現場をつなぐ時間を大切にしています。
吉田(地ブラ):最後に、今後の展望をお聞かせください。
現在、売上は約10億円で、2028年3月度には20億円を目指しています。
ただ、数字以上に目標に掲げているのは「まちづくり会社ナンバーワン」になることです。教育、観光、福祉などさまざまな事業を通じて地域の暮らしを豊かにし、日本全体に活力を生み出すモデルをつくっていきたいと考えています。
吉田(地ブラ):山本さんのお話を伺いながら、まちづくりとは「仕組み」か「地域に寄り添う姿勢」かどちらか一方ではなく、その掛け合わせによって豊かさを育む活動なのだと感じました[1] 。共通の理念と事業スキームを土台にしながら、地域に入り、共に考え、伴走し続ける――その積み重ねが、まちの未来を変えていくのだと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事
1975年生れ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009 年の横須賀市長選挙で当選し、2013 年に再選。2017 年に退任するまでの8 年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている。
取材後コメント:
「地域の豊かさをUPDATEする」という理念の奥深さに強く感銘を受けたインタビューでした。単なる地域活性化ではなく、「まちが人をつくり、人がまちをつくる」という循環を重視する姿勢は、地方創生の本質を突いていると感じました。地域の個性を尊重しつつ、仕組みと文化を育てるFoundingBaseの挑戦は、地方から日本全体を元気にする可能性を感じさせるものでした!
吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役
1981年広島県生れ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。
取材後コメント:
地域に入り込んで、実際に地域の人となりながら一緒に課題解決をしていく。複数のソリューションを持ちつつ、各地で実践された内容から日々進化し続けていく流れが確立されているのが非常に魅力的だなと感じました。今後の更なる真価が楽しみです!