「優秀な人材が東京に集まり、地方では経営課題を解決するだけのリソースが不足している」。
この、日本中の地方企業が抱える構造的課題に対し、外部プロ人材の知見を“シェア”することで解決する「プロシェアリング」というモデルがあります。
この領域のトップランナーである株式会社サーキュレーション。今回は、創業期から参画し、地方拠点の立ち上げを牽引してきた久良木さんに、創業当時の裏側、事業の実態、プロシェアリングの可能性、そして地方創生への思想を伺いました。
ゲストプロフィール

久良木 太士(きゅうらぎ・ふとし)
株式会社サーキュレーション プロシェアリングコンサルティング本部 東日本・西日本支部 部長
大学を卒業後、株式会社インテリジェンス(現:株式会社パーソルキャリア)に入社。人材周り全般のソリューションを提案しトップセールスとして活躍したのちマネジメントや新規事業やサービスの開発等を経験。
その後創業時のサーキュレーションに参画。サービス業界領域のチームの立ち上げに奔走した後、九州支社を0から立ち上げ、中国支社、四国支社と3支社立ち上げ運営を経験。地場銀行とのアライアンス締結などエリア全体の展開に貢献。2025年2月より部長に就任し、現在は支社7拠点を管掌。
1. 創業期からの歩み ― 地方出身者としての原点と、組織づくりの裏側
吉田(地域ブランディング研究所:以下、地ブラ):まずは自己紹介をお願いします。
私は福岡県大木町という人口1万人ほどの小さな町の出身です。前職はパーソルキャリアという会社で、最初は九州支社に配属され、その後27歳のときに東京本社へ異動しました。そこで大手企業の採用支援に関わり、3万人規模の採用計画やナショナルクライアントの採用企画を担当していました。
2013年頃に、創業メンバーから「新しい会社を立ち上げるから一緒にやらないか」と声をかけてもらったのがサーキュレーションに関わるきっかけです。会社が立ち上がったのが2014年1月で、私は同年10月頃にジョインしました。
その後、東京本社の営業部門の立ち上げを経験し、九州支社を作りたいという思いがあって、2017年の九州支社の立ち上げを皮切りに、中四国と拠点展開を担当してきました。
2. 上場・非上場を経験しても変わらない、サーキュレーションの姿勢
吉田(熱意ある地方創生ベンチャー連合:以下、熱ベン):上場・非上場を経験されたと思いますが、社内外の期待は変化しましたか?
実は、思ったほど変わらなかったんです。一般的に「上場すると採用力がつく」とか「市場からの見られ方が変わる」と言われますが、私自身はあまり大きな変化を感じませんでした。それよりも、キャッシュが厚くなったときに、それをどう投資するかが重要だと考えていました。
私たちにとって上場は“通過点”であって、目的ではなく手段でした。むしろ「ちょっと遅れたくらいかな」という感覚すらありました。社員の目線も大きく変わらず、事業を成長させるためにやるべきことに集中し続けている、そんな印象です。
3. 地元への思いと、地方にこそ必要な事業モデル
吉田(熱ベン):九州支社の立ち上げには、やはり地元への思いがあったのでしょうか?
そうですね、3〜5割くらいは地元への思いがありました。地元で自分を育ててくれた方々に何か返したいという気持ちが大きいです。一方で、事業として地方に拠点を持つことにも強い意義がありました。
優秀な人材は東京に集中していて、地方企業は慢性的な人材不足。さらに少子高齢化、デジタル化の加速など、環境変化が激しい。だからこそ「外部人材の知見をシェアする」というモデルは、地方ほど価値があると感じています。
四国や中国地方も同じで、地方創生という思いもありますが、事業としても大きな可能性があると感じていました。
4. サーキュレーションの事業全体像 ― プロシェアリングの本質
吉田(地ブラ):現在の組織規模や事業の成長について教えていただけますか?
サーキュレーションは2014年に立ち上がり、今は売上が約100億、社員数が約250名です。2021年に上場しましたが、ビジョン実現のため2025年の8月に株式会社PKSHA Technologyにグループインし、現在は非上場化しています。
我々が掲げるビジョンは「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」で、日本全体の生産性や事業成長を支えたいという考え方です。

吉田(地ブラ):なぜ「知のシェア」という考え方が必要だと考えているのでしょうか?
地方は特に課題が深刻です。
・優秀な人材は東京に集中し、地方の企業は人手不足
・IT化に遅れをとっているものの、内部人材だけでは対応しきれない
・日本の企業の99.7%が中小企業で雇用に必要な費用が捻出できない
これを考えると、雇用だけで解決するのはほぼ不可能です。知見をシェアし、必要なときに必要な力を借りるモデルが不可欠になります。
吉田(熱ベン):プロシェアリングとは具体的にどのようなサービスなのですか?
プロシェアリングとは、人材・経験・知見・文化そのものを“必要な期間だけ”企業にシェアするサービスです。登録者は3万2000名で、半年〜1年のプロジェクト単位での業務委託契約となるので雇用関係に縛られない柔軟な専門性を提供しています。
こうした働き方「ジョブ型雇用」はアメリカ・ドイツ・フランスなど成長国では一般化しており、日本でも広がりつつあります。
吉田(熱ベン):御社がコンサルタントとして伴走するモデルには、どのような特徴や強みがあるのでしょうか?
我々は“マッチングだけ”では終わりません。コンサルタントがPMOとしてプロジェクトに入り込み、要件定義から進行管理まで伴走します。
地方企業は外部人材の活用経験が少なく、丸投げしてしまうケースも多い。その結果、社長が「思っていたのと違う」となることもあります。そこで我々が間に入り、案件を言語化し、スケジュールを整備し、企業とプロ人材の理解を揃えて成功に導きます。
5. 依頼から実行までのプロセスと、具体的なコスト・期間感
吉田(地ブラ):契約期間や費用感はどのようになっているのでしょうか?
半年契約か12ヶ月契約がほとんどです。経営課題は1〜2ヶ月では解決しないので、この期間が適切なんです。
費用は
月額45万〜80万円(地方は50万円前後が多い)
大規模案件では月100〜150万円程度
です。費用対効果を社長としっかり議論し、半年後にどんな成果を出すかを明確にします。
吉田(地ブラ):プロ人材はどれくらいの時間コミットするのが一般的なのでしょうか?
プロジェクトに合わせて柔軟に対応いただいていますが、よく見られるケースは週1回のWebミーティング、月1回の現地訪問のパターンです。業務の切り分けも行い、クライアント企業の社員様がやる範囲とプロが行う範囲を明確にしていきます。
吉田(地ブラ):AIを活用したマッチングはどのように行われているのですか?
ヒアリング中の音声をリアルタイムでAIが解析し、「この課題ならこのプロ人材」が自動でレコメンドされます。候補提示や略歴提出、Web面談の調整までは無料です。
吉田(地ブラ):実際に進めてみた結果、事前にヒアリングしていた課題と違った場合、どのように対応されるのでしょうか?
実際にプロジェクトを進める中で想定よりも課題が根深かかったり、課題定義していたものに相違があるというケースもあります。その場合は業務委託契約ですので、別のプロ人材でリスタートします。正社員として雇用した場合はこうはいかないのでこれもプロシェアリングのメリットの1つです。

6. 自治体との連携 ― 金融機関・メディアと組む理由
吉田(熱ベン):自治体との連携では、どのような戦略で取り組んでいるのでしょうか?
金融機関や地方メディアと連盟でプロポーザルに応募する形が増えています。地方企業の社長はマスメディアをよく読み、信用を重視するため、この組み合わせが最も効果的です。
吉田(熱ベン):多くの金融機関と連携が進む理由はどこにあるのでしょうか?
2017年の金融庁の規制緩和で、銀行が人材紹介などを取り扱えるようになったことが大きいです。しかし採用だけでは経営課題は解決できない。そこで我々のプロシェアリングが、銀行にとっても“提案の入口”として役立っています。
銀行員の方は「企業の課題をどう定義すべきか」迷うことが多いのですが、我々がヒアリングで課題を明確化することで、銀行側も安心して提案できるようになります。
現在は年間約3000件の企業アポイントを銀行から紹介いただいています。
吉田(熱ベン):行政から評価されている点はどのような部分なのでしょうか?
行政から評価されるのは、「企業内部の担当者を育成する」という点です。プロジェクトを通じて企業が自走できる状態をつくり、次の課題に向けて企業自身が動けるようになる。この“人材育成込みの課題解決”が価値だと言っていただいています。
7. 地方創生への思想 ― 人材不足時代の“知の循環”モデル
吉田(地ブラ):地方創生への思いを教えてください。
今のままでは地方に優秀な人材は戻ってこないんです。でも地方企業が成長しなければ地域の経済は縮小していきます。
だからこそ、外の知見を取り入れ、事業を成長させ、外貨を稼げる企業を増やしたい。東京の会社に買収されると法人税が東京に流れてしまいますが、地元の企業が外に出れば、税収は地域に残る。労働力と外貨の両方を地域に生み出したい、それが私の想いです。
吉田(地ブラ):今回の対話を通じて、サーキュレーションが掲げる「知の循環」という言葉が、単なる理念ではなく、地方企業の現場で具体的な価値として機能していることを強く実感しました。外部人材の力を“使いこなす”ための仕組みまで一貫して支えている点が、同社の独自性だと感じます。
吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事
1975年生れ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009 年の横須賀市長選挙で当選し、2013 年に再選。2017 年に退任するまでの8 年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている。
取材後コメント:
今回のインタビューを通じて、民間企業の知見や人材を、いかに地域や行政の課題解決につなげていくか、その実践的なモデルを改めて確認することができました。サーキュレーションさんの取り組みは、単なる人材マッチングにとどまらず、企業や地域が自ら動き続けられる状態をつくる点に本質があるのだと思います。制度や組織の壁を越え、人材と知見が循環する仕組みをどう実装するか。そのヒントが詰まった対話でした。
吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役
HP: https://chibra.co.jp/
1981年広島県生れ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。
取材後コメント:
課題に対して新たな打ち手をとっていく上で、顧問やアドバイザー契約をしてもマッチせずきまずい状況で契約の終わり方も模索するようなことは私自身も何度もあり、難しいなと痛感しています。
サーキュレーションさんのような取り組み方であれば、ちゃんと適切なマッチングや伴走でそのミスマッチを最大限軽減できるような流れに持っていけそうで、より地域企業の課題解決に繋がっていくといいなと感じました。