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【連載企画】たった1人の職員の意思決定が市場を生む——ホープ時津氏が語る「自治体特化」21年で切り拓いた官民連携の新市場 ~熱ベン吉田・地ブラ吉田が深堀り!地方創生の秘訣その⑩~

行政からは、お金を取らない——。

自治体が所有するスペースを広告枠に変え、行政の財源確保に貢献する。2005年、大学卒業の1カ月前、当時ほとんど誰も手をつけていなかった「自治体」というマーケットで創業した株式会社ホープの時津孝康さん。広報誌の広告というたった一つのサービスから始まり、いまでは5社を束ねる上場グループへと広がりました。

今回のインタビューでは、行政の周辺から収益を得るという発想の源泉や、事業の広げ方をたどりながら、「たった1人の職員の意思決定」が持つ影響力と、to G市場のこれからを探ります。

ゲストプロフィール

時津 孝康(ときつ たかやす)

株式会社ホープ 代表取締役社長CEO

1981年生まれ、福岡県出身。2005年福岡大学卒業。大学在学中の2005年2月、有限会社ホープ・キャピタル(現・株式会社ホープ)を創業。自治体が所有する様々なスペースを広告枠として企業へ販売することで自治体の財源確保に貢献する自治体広告事業を開始。その後、ジチタイワークス事業、企業版ふるさと納税事業、空き家問題対策事業アキソルなど、自治体に特化したサービスを展開している。2016年に東証マザーズ(現グロース)・福証Q-Boardに上場し、創業以来、自治体広告事業を通じ約120.2億円(2026年3月末時点)の財源確保に貢献している。

1.インターネットか、行政か。21歳の直感

会社をつくったのが2005年なので、気づけばもう21年ほど、自治体に特化したサービス会社をやってきています。大学卒業の1カ月前につくった会社ですが、当時は「G」というマーケットは誰も見向きもしていなかったと記憶しています。

まだ若く勢いしかなかったのもあって、30年、40年、50年ぐらい先を見たときに、日本の中でどこが一番変化が必要で、面白いマーケットになるんだろうと考えたんです。そのときに、インターネットと、この自治体というマーケットが直感的にめちゃくちゃ面白そうだなと思った。ただ、インターネットはすでにサイバーエージェントやライブドア、楽天、GMOグループといったプレイヤーがいて、三番煎じ、四番煎じ感が半端なかった。僕はあまのじゃくなので、だったら誰もやっていない行政でやってみようと。

ビジネスモデルは固まっていませんでした。どこに負があってどうマネタイズするのか、僕は行政職員も公務員も身近にいなかったので分からず、とりあえず行政向けの会社をつくるところから始めています。地域を変えたいという大義ではなく、面白そうだというワクワクからつくったタイプなので、理念もミッションもない状態からのスタートでした。最初の社員が入る2007年1月まで、ほぼ2年間は1人で走り続けています。

2.2006年10月4日、最初の1契約

2006年10月4日、自治体が発行する広報誌の中に広告を入れるというモデルで、福岡のある自治体と契約したのが最初です。60万円で買い取って80万円で売る。人口が5万人もいないような自治体でも、遊休スペースを使って財源確保ができるんだ、という成功事例を一緒につくり上げたのが、ちょうど今から20年前になります。

行政は前例主義がすごく強いので、Aという自治体がやると、隣接するB、C、D、E、Fがすぐ「あそこもやっているなら見積もりを取りましょう」と対応してくれる。そうやって自治体特化の広告代理事業で伸びていったのが2006年以降でした。

我々のようなベンチャーは、大人の人たちに印象を残すことがすごく大事だと思っていました。なので「hope-inc」ではなく、「zaigenkakuho(財源確保)」というキャッチーなワードをドメインにしたんです。そうしたら職員はめっちゃ驚くんですよ。「何なんですか、このドメインは」「やめてくれ」と言われたこともあります。実績も信用もない状態だったので、少しでも印象を残したかった。

最初の契約のときは、かなり厳しいことを言われたのを覚えています。「行政がこんなことをしてはいけない」と、すごい真顔で。ただ、同じ頃に横浜市長が「自分たちでお金を稼ぐんだ」と発信されていたので、「そちらはダメで横浜はいいんですか?」と申し上げていました。

結果論ですが、お金がないベンチャーが生き残る確率を1%でも上げるなら、固定費は少ないほうがいい。東京で家賃を払うより、地元にいて、なんなら親元に近いほうが、援助も米ももらえるじゃないですか。生存確率を上げるための選択が、たまたま福岡だったということです。

3.祖業か、成長事業か。5社体制の重心

ホープは証券コード6195のホールディングスなので、ホープ自体が事業を持つことは基本的にありません。創業時につくった広告事業のジチタイアド、公務員向けのフリーマガジンを出しながらプラットフォーム化を進めるジチタイワークス、企業版ふるさと納税がメインのジチタイリンク、行政情報アプリを運営するマチイロ、公務員特化のHR事業のジチタイキャリア。この5社が100%子会社としてぶら下がっています。

今期は売上高予想が38億円、営業利益予想が4億46百万円、ジチタイアドが売上高約16億円、ジチタイワークスも同じく約16億円ぐらいになる予想です。それ以外はジチタイリンクが約3億円ほどです。

ただ、いま脳みそのシェアが一番大きいのは、圧倒的にジチタイワークスじゃないですかね。拡張性があるのと、垂直統合・水平統合的にこの行政というマーケットの中ででかくなるだろうなと思うので。

4.税金の使い道を、意志を持って決められる

今期は6億〜7億円ぐらいが寄附です。面白いなと思うのが、我々も法人税を払うんですけど、どこで何に使われているかは結構分からないじゃないですか。税金の使い道まで意志を持って決められるというのが、企業版ふるさと納税の一番の醍醐味で、国としても期待しているところなんじゃないかなと。そこを前面に出してご案内すると、感度が高い経営者の方は50万円、100万円単位で寄附してくださる。マーケットがまだ600億円ぐらいなので、早く1000億円、3000億円にできればと思っています。

企業版でも1社が音頭を取って業界団体をつくろうとしたんですけど頓挫して、どこもロビー活動がうまくいっている感じはないですね。個人版のふるさと納税が返礼品規制であれだけ厳しくなっているので、企業版も同じ道をたどらないかという警戒はしています。

ただ、この制度自体をほとんどの経営者がご存じない。だから「まだいける」と思って一生懸命やっています。一方で、寄附が物品の提供に結びつく話には慎重です。我々も新車を提供したいというメーカーさんをおつなぎしたり、リカバリーウェアの寄贈をお手伝いしたりはするんですけど、よく分からないプレイヤーが入ってくると、「ふるさと納税」というだけで一気に批判が起きる領域なので。

5.たった1人の職員の意思決定が、上場会社を生んだ

彼は新卒で、いま31歳です。最初はあの事業も「無理では?」となったんですよ。でも、ある自治体の方が「本当に素敵なサービスだと思う。ぜひ一緒に盛り上げていきましょう」と言ってくれた。行政職員のたった一言、たった1個の契約という意思決定が、30人ぐらいの雇用を抱えるマーケットを生んでいくんですよ。公務員の人たちは機会を与える側の人間なので、一つ動いてくださるだけで、経済的にものすごく大きなものを生み出す機会がある人が多いなあ、とよく思います。

僕が一番初めに契約をした福岡のある自治体のご担当者の方は、すでに病気で亡くなられているんですが、上場したときに当時の市長からそれを伺って、ご家族に会いに行ったんです。お墓の前で、ご家族には驚かれました。2006年10月4日にその方が契約をしてくださった、そのたった1人の意思決定があったから、いまの会社があるんです、と。『お礼を言いに来ました』とお母様と息子さんにお伝えしたんですよね。それぐらい行政職員の意思決定は影響が大きいものだと、いまだに思っています。

6.全国自治体の全課へ12万部。ジチタイワークスというプラットフォーム

行政マガジンの冊子を全国自治体のすべての課に2カ月に1回お届けしています。たとえば「ある自治体でどういう予算の使い方をして、どのDXツールでうまくいったか」という事例を特集する。裏側では「あるSaaSツールを導入してDXがうまくいったよ」という事例になるので、その製品の提供企業から広告のお金をいただくのがポイントです。

冊子だけでなく、プラットフォーム化も進めています。公務員の方が登録すると無料の名刺を毎年もらえたり、「民間サービス比較」では、次年度予算の動きが始まる9月、10月ぐらいに職員が「こういうテクノロジーを入れてみたい」と検索したとすると、該当するサービスが見つかればそこから資料請求までできる。公務員だけがログインできる形です。会員になるメリットをどんどん増やしていくのが戦略の1つですね。

企業の生い立ちがまったく違うと思うんですよ。他社さんは経営者向けの媒体からスタートして、編集にレバレッジをかけて自治体向けに横展開していく感覚がある。我々は2005年の創業時から自治体一本なので、「行政職員の負を解決したい」というビジネスの起点が圧倒的に違うんじゃないかなと。発行部数も、全国自治体の全課に届けていますので12万部ぐらいあります。

編集長もおりますので、「いま最も自治体が困っているのは何か」、逆に言うと「どこに一番予算がついているか」を分析しながら、DXや防災といった企画を立てていきます。

民間の場合は非常に合理主義になります。広告出稿とセミナーを買っていただいたら、その金額分のリードというリターンがないことには継続はない。囲い込むよりも、ちゃんとお客様に儲かってもらいましょうというのが基本の考え方です。

7.値のつかない空き家に向き合うアキソル

アキソルという事業で、これはまだ子会社化していません。地方の自治体には、管理されず野放しになっている空き家がめちゃくちゃ多い。一定のバリュエーションがあるものは大手や地元の不動産屋さんが売り買いすればいいんですけど、そこにもいけないレベルの「負動産」がいっぱい存在しているんですよ。

空き家の近隣の方やオーナーは、かなり高い確率で自治体に相談に行くわけです。「親からもらったんだけど、いまどういう状態なんでしょうか」と。でも職員からすると「売りましょう」とも「壊しましょう」とも言いがたい。それだと前に進まないので、総合窓口として我々アキソルが介在し、0円で譲渡したり、解体したり、遺品整理をしたりと総合的に解決しています。今期の売上はまだ少ないですが、今後空き家が減ることはないので、自治体と協定を結んで「空き家のトラブルは全部アキソルへ」という状態をつくろうとしています。

剪定や遺品整理では地元の業者を2〜3社集めて見積もりを取り、成約した場合にご紹介料をいただきます。0円で譲渡するケースは、マッチングの手数料として、手放したいオーナーさん(贈与者)と、物件を欲しいという受贈者の双方からいただく形にしています。

自治体の負担は0円です。財源に余裕がないところから対価をいただくのは、商売としてやはり難しい。だからこそ、ひとひねり、ふたひねりして収益構造のほうを組み替えるわけです。行政からは極力いただかず、その周辺からいかに上手に収益を上げるか。ここはビジネスモデルを考えるときの起点として、いつも癖になっている部分だと思います。

8.to G市場のこれからと、次に見ている領域

お金がないところからお金を取るのは、やっぱり難しい話になる。特にGというマーケットは予算サイクルもあり、ベンチャーやスタートアップがこのサイクルで生きていくのは難儀だろうなと。

ただ、すごいテクノロジーを持っている会社さんはいっぱいあるし、自治体が「これ、待っていましたよ」というものも絶対にある。プロダクトに自信があって、それを自治体がまだ知らないという世界観はやっぱりあるんじゃないかなと。行政マーケットはまだまだ変わっていく途中で、伸びしろが大きいので、いろんな会社様にチャンスがあるんじゃないかなとは思います。

10年以上前から始めた、自治体の広報誌をアプリで見られるサービスです。いま約940の自治体と契約させていただいていて、ずっと無料でやっていたんですけど、今期からマネタイズを始めました。多言語翻訳や、目が悪い方のための読み上げ機能といった付加価値をつけ、行政の広報課からお金をいただく設計です。

福岡に本社を構えながら、1回倒産の危機はありましたが、それ以外はコツコツと、継続の先に確信が生まれるんだというところでやってきました。社員のこれまでの努力がすべてこの数字に表れているなと思います。

一般行政職の職員が95万人ぐらい、教員も入れると200万人ぐらいいて、そちら側はジチタイワークスの中で会員を募ってきている。その上で、僕がいま一番やってみたいのは、実は議員さんの領域なんですよ。最後は議会の意思決定や、議員さんのインフルエンスがある。真面目に一生懸命行政と向き合っておられる方へ、我々はまだ何のサービスも提供していない。ちゃんと儲かりながら、議員の人たちの負を解消するサービスって何なんだろう、と考えています。

ありがとうございます。自治体というマーケットに21年間、根を張ってやってきておりますので、もし我々が何かお手伝いできることがあれば、お声がけいただければと思います。

吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事

1975年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009 年の横須賀市長選挙で当選し、2013 年に再選。2017 年に退任するまでの8 年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている。

取材後コメント:

「地域を変えたいという大義ではなく、ワクワクからスタートした」という起点が、これまでの連載とはまた違う角度からの学びになりました。そして「行政からは極力いただかず、周辺から収益を上げる」という発想を21年間貫き、上場企業へと育て上げたことは、純粋にすごいと思いました。

「たった1人の職員の意思決定が市場を生む」という言葉は、行政の意思決定が持つ影響力の大きさを改めて教えてくれます。第10回の締めくくりにふさわしい内容でした。この記事を読んだ地方創生ベンチャー企業が、ホープさんの後をドンドン追いかけていくことを願ってやみません。

吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役 

HP: https://chibra.co.jp/

1981年広島県生まれ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。

取材後コメント:

お名前は伺っていて、どんな事業をされている会社なのかずっと興味があった中で、10回目にしてお会いできて非常に光栄でした!

地域ビジネスってなかなかスケールしない、横展開が難しいといわれている中でマッチングの仕組みを整えられていることや、エアポケット的な領域をビジネスにされたことなど大変参考になりました。

そして属人化させずに、各領域を子会社化しながら権限移譲までされているモデルに大きな刺激を受けました。福岡拠点から全国をカバーされていること含めて、まさに地域創生分野の「ホープ」であり、それ以上に先進優良事例ですね!