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【連載企画】機会の格差を越えて地域に可能性をひらく——LocalX岩切氏が語る「官民共創人材」という挑戦~熱ベン吉田・地ブラ吉田が深掘り!地方創生の秘訣その⑧~

生まれた場所によって、その人の可能性や挑戦の機会が左右されてしまう——。

鹿児島県の離島・喜界島で育ち、その後、総合商社で12年間キャリアを積んだのち、地方創生領域の人材事業で起業したLocalX株式会社代表の岩切さん。現在は、自治体と民間企業が連携して地域課題の解決に取り組む「官民連携・官民共創」の領域で、企業と人材をつなぐ事業を展開しています。

今回のインタビューでは、喜界島での原体験、三井物産での経験、そしてLocalX創業の背景をたどりながら、官民連携・官民共創領域で求められる人材像や、地方公務員・行政経験者の可能性、さらには地域と民間のあいだに横たわる“断絶”をどう埋めていくのかについて掘り下げました。地方創生の現場でいま求められている「官民をつなぐ人材」とはどのような存在なのか、そのヒントを探ります。

ゲストプロフィール

岩切 将一(いわきり・しょういち)
LocalX株式会社 代表取締役

鹿児島県・喜界島出身。高校卒業後に上京。慶應義塾大学卒業後、三井物産株式会社に入社し、東京・インドネシアにて化学製品アンモニアの輸入・国内販売・海外貿易に従事。その後、小売・流通領域でのDX推進、ベンチャー投資、投資先との共同事業推進、投資先のIPO・被買収時の株式売却等に約4年従事。2023年4月、地方創生領域に特化した採用支援と転職支援事業を展開するLocalX株式会社を創業。現在は、官民連携・官民共創を推進する企業の採用支援とその推進に情熱を持つ人材の転職支援に取り組んでいる

1.喜界島で育った原体験と、機会の格差への問題意識


LocalXの岩切です。2023年4月に創業したLocalXで代表を務めています。現在は、官民連携や官民共創の事業を展開する企業向けの採用支援サービスを行っており、地方創生や地域創生を人材面から支援しています。

私は鹿児島県の離島・喜界島で生まれ育ち、高校までの18年間を同島で過ごしました。高校卒業後に上京し、新卒で三井物産に入社して約12年間勤務しましたが、地域間の機会格差の是正と地域の可能性の最大化に取り組みたいという思いから退職し、LocalXを創業しました。

 喜界島には高校が1つだけあって、私はそこに通っていました。公立ですが、現在は中高一貫のようです。当時小学校は複数ありましたが、私が通っていた小学校の同級生は5人くらいでした。それだけでは学級として成り立たないので、いわゆる複式学級でしたね。

高校の大学進学率は、私の理解では当時10%ほどだったと思います。同学年の中で大学を目指す人は多くなくて、推薦等で九州県内の大学に進学するのが一般的だったと記憶しています。いわゆる受験戦争とはかなり違う世界でしたね。

ありましたね。渋谷のスクランブル交差点を初めて見たときは衝撃でした。喜界島の人口より多いんじゃないかと思うくらいの人が1か所に集まっている光景を見て、まずそこにカルチャーショックを受けました。

18年間を島で過ごす中で、テレビに映る東京や同じ鹿児島県でも本土とは全く環境が異なる中、生まれた場所によってその人の人生の選択肢が限定されてしまうのではないか、という恐怖心をずっと持っていたんです。だからこそ、自分の可能性をどこまで広げられるのかが当時の大きなテーマでした。

その延長で、就職活動では“難しい”とされる世界にあえて挑戦したいと思いました。総合商社や外資系金融機関が当時の人気業界でもありましたが、自分にとっては、そうした世界に行くことがある種の可能性の証明になるのではないか、という気持ちがありました。結果として三井物産に入社することになりました。

2.総合商社での12年と、起業につながった視点


最初の8年間ほどは、アンモニア事業に携わっていました。化学原料や肥料原料として使われるアンモニアの輸入や国内販売、海外間の貿易業務を担当していました。

東京にいた時期と、インドネシアにいた時期があり、主にアジア圏の貿易に関わっていました。駐在期間自体はそこまで長くなかったのですが、現地の文化や商習慣にどっぷりつかりながら仕事をした経験は大きかったですね。

その後、社内で異動を希望し、ベンチャー投資の仕事を4年間ほど担当しました。学生時代に創業期のビズリーチの新規事業子会社等のスタートアップでインターンをしていて、課題解決の手段として、自分で会社をつくって挑むという選択肢があることを知っていたんです。いつか自分もそうした形で自分のミッションに向き合いたいと思っていたので、スタートアップ領域で事業づくりに携わるべく、手を挙げて異動しました。

会社としてCVCの機能もありますが、私がいたのはどちらかというと事業部側の投資でした。事業シナジーを追求するような投資で、社内リソースをフル活用しながら、領域横断で社内事業との連携を通じた投資先のバリューアップを推進していました。

まずは喜界島出身の自分が日本や海外という大きな舞台でどこまでやれるのかを確かめたいという思いが強かったんです。その結果として12年間会社員を続けたわけですが、一方で、自分が人生を通じて感じていた問題意識、つまり「生まれた環境による個人の可能性の制約」とそれを引き起こしている地域間の機会格差にいつかは向き合いたいと思っていました。会社員として組織のミッションにコミットし続ける中で、徐々にですが自分のミッションに真正面から向き合いたい、向き合わないと後悔するだろうとも感じるようになりました。

なので、最終的には「何をやるか」を決め切る前に前職を辞めて、とにかく起業するという決断をしました。地域間の機会格差を埋めるような仕事、地域の人々の可能性を広げることを応援する仕事はしていきたい、でもそれが何で具体的にどうすればよいのかは、正直なところ試行錯誤しながら見つけていった面があります。

3.喜界島という場所を、どう見つめているか


喜界島は奄美大島の隣にある島で、車で一周するとだいたい40分くらいです。隆起サンゴ礁でできた島で、人口は現在6000人弱ほど。観光と、サトウキビを中心とした農業で成り立っている島です。自治体の予算規模でいうと、年間80億円ほどの町ですね。

アクセスは2通りあって、鹿児島からだと船で11時間半ほど、飛行機で1時間10分ほど。奄美からだとフェリーで2時間前後、飛行機なら15分くらいです。奄美から飛行機に乗ると、離陸してすぐ着陸体勢に入るくらい近いです。

そこは実は難しいところでもあります。観光地として打ち出してはいるものの、隣に奄美大島があるので、やはり比較すると分があるのは奄美のほうなんです。ただ、サンゴ礁の海の美しさやスキューバダイビングなどは魅力ですし、コアなファンには刺さる面があると思っています。

喜界島単体で大きく集客するのは簡単ではないですが、奄美大島に行く流れのなかで立ち寄っていただくような導線には可能性があるのではないかと感じています。

現時点では、物理的に戻って関わることはあまり考えていません。もちろん何らかの形で喜界島に関わりたい気持ちはありますし、財団なのか別の仕組みなのかは分かりませんが、関与の仕方は考えていきたいです。

ただ、実際に喜界島に移住して挑戦している方や、島に戻って事業をしている方もいて、その情熱にはかなわないと感じることもあります。だからこそ、自分は別の場所、別の形で島に貢献できればいいのかなと今は思っています。

4.LocalXが取り組む、官民共創人材のマッチング

大前提として、自分自身が地域間の機会の格差に直面してきたという感覚があります。その問題意識を踏まえ、機会格差の是正と、機会格差に直面している人々の可能性拡大の支援というテーマを掛け合わせた事業をつくりたいと考えていました。

そこで取り組んでいるのが、地方創生領域における転職支援と採用支援です。具体的には、自治体と連携しながら事業を進める企業、いわゆるBtoLG(地方自治体向けビジネス)を展開する企業に対して人材をご紹介しています。同時に、地域に関わる仕事に挑戦したい人のキャリア支援も行っています。


企業と対話する中で見えてきたのは、大きく2つのニーズです。

1つは、自治体の仕組みや意思決定の流れを理解している人材です。元自治体職員など、行政の現場を理解している方は、企業が自治体と事業を進めるうえで大きな強みになります。

もう1つは、実際にサービスやプロジェクトを自治体に導入していく営業力です。BtoGやBtoLGのフロントに立ってきた方、あるいはBtoB営業の経験を持つ方へのニーズも非常に高いと感じています。

現在はまず、この領域にフォーカスして事業モデルを組み立てています。いきなり領域を広げるのではなく、競争の少ない分野から実績を積み上げ、そこから徐々に支援の範囲を広げていきたいと考えています。


そうですね。現状は営業職や事業開発職が中心ですが、将来的にはエンジニアなども含めて支援できるとよいと思っています。自治体向けのITサービスやコンサルティングなど、この領域で事業を展開する企業は増えているので、人材面からその動きを支えていきたいと考えています。

5.行政経験者は本当に活躍できるのか


実際、私も最初から行政経験者に強い可能性を感じていたというよりは、企業との対話のなかでニーズを発見したところがあります。地方銀行出身者含め、いろいろなマッチング仮説を検証していたなかで、ある企業から「実は自治体経験者がほしいです」と言われました。

理由を聞くと、自治体とビジネスを深めていくうえで、自治体側の事情を理解している人が必要だということでした。もちろん、民間企業の視点で動けることや、成果に向かって動けることは大前提です。ただ、それらを備えたうえで行政側の理解がある人材には価値がある、と。

そうした声が1社だけでなく一定数存在していることが分かってきて、これは事業として成り立つ可能性があると感じるようになりました。


まさにそこは転職支援の現場でも大きな論点です。たとえば職務経歴書ひとつ取っても、自治体での実績がそのままだと、企業側から見て価値が伝わりにくいことがあります。企業は利益や成長の観点からその人の経験を見るので、自治体の文脈で語られた実績を、そのままでは読み解けないです。

自治体の仕事には、目標設定の仕方や評価のされ方が民間と異なる部分があります。だからこそ、自治体のなかで積み上げた経験を、企業が理解できる形に翻訳していく必要がある。そこは転職支援のなかでも意識して取り組んでいるところです。

私なりに企業の見え方や、人事が求める視点を踏まえながらレジュメに反映したり、面接でどう伝えるかを整理したりすることで、少しでも橋渡しができればと思っています。

6.求職者をどう集め、どう接点をつくっているのか

弊社の理解では、行政職員の方は全国にかなり大きな母集団があり、そのなかで一定数が毎年転職市場に出てきます。もちろん、公務員から公務員へ移る方もいれば、民間へ出る方もいるので、すべてが対象になるわけではありません。

ただ、その方々がどこにいて、どういうタイミングでキャリアを考えるのかを見極めながら、スカウト媒体を活用したり、広告を打ったりして、デジタル上を中心に訴求しています。

一方で、それだけでは足りないとも感じています。熱ベンのイベントに参加して自治体職員の方と直接つながったり、前職時代に自治体からの出向者と一緒に働いた経験があるので、そうしたオフラインのネットワークをたどったりしながら、いろいろな形で接点を増やしています。現状ではオンライン中心ですが、今後はもっと多様な入り口をつくっていきたいです。


おっしゃる通りで、そのあたりはこの領域の難しさだと思います。一方で、既存のコミュニティにいる方々から相談をいただくこともありますし、いわゆる尖った方、役所の中だけに閉じないキャリアを考えている方々も一定数いらっしゃる印象です。そうした方々へのアプローチの仕方は、これからさらに磨いていかなければいけないと思っています。

7.官民の断絶をどう埋めるか——ブリッジ人材の可能性

現状はクローズドに候補者と企業をつないでいる部分も多いのですが、企業の挑戦や求める人材像をより具体的に発信することで、行政経験者の方にも民間でのキャリアの可能性をイメージしていただきやすくなると感じています。

まさにそうだと思います。自治体で積み上げた経験を、企業が理解できる形に翻訳すること。そして企業側にも行政経験者の価値を伝えること。その両方を橋渡ししていくことが、私たちの役割だと考えています。地域に関わりたい人と、官民連携を進めたい企業が自然につながる環境をつくっていきたいですね。

吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事

1975年生れ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009年の横須賀市長選挙で当選し、2013年に再選。2017年に退任するまでの8年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている。

取材後コメント:
LocalXさんが取り組む官民共創人材のマッチングは、まさにいま日本の地方行政が直面している「自治体と民間の断絶」という問題に正面から向き合うものです。自治体と民間企業は、組織の目的や意思決定の構造が根本的に異なります。その断絶を乗り越えるために、行政の論理を理解する経験者が、民間企業に理解できる言葉に「翻訳」し、両者の橋渡しをするという視点は、地方創生の現場にとって非常に重要だと感じました。
両者をキャリアという観点でつなぐLocalXさんの取り組みは、この領域における本質的な課題に応えるものだと思います。行政経験者の活躍の場が広がることで、地域の課題解決がより加速することを期待しています。

吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役 
HP: https://chibra.co.jp/

1981年広島県生れ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。

取材後コメント:
インタビューの中でもお話しさせてもらいましたが、弊社側でも行政のお作法がわかっている人材はまさに必要としているところです。民間と行政の間にあるちょっとした前提のお作法が整理されるだけでもうまくいくプロジェクトは多いなと感じています。きちんと前提ルールのギャップを理解した中での文書作成・調整能力にたけた行政出身者が民間でももっと活躍してくれるようになっていけば公民連携も加速するなと考えています。
お話を伺いながら、民間側のそうした需要を伝えきれていないのは私たちの責任でもあるなと感じたのでもっと発信していいサイクルに持っていき、一緒に好事例を作り上げていきたいです!