ゲストプロフィール
フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 東日本投資部 次長 インベストメントオフィサー
石坂 颯都(いしざか りゅうと)氏
早稲田大学政治学研究科(公共政策領域)で地域活性化について学んだ後、外資系生命保険会社を経て2019年にフューチャーベンチャーキャピタルへ入社。地域活性化や社会課題の解決に取組む全国の起業家を応援したい思いで日々業務に従事。エクイティの可能性の追求と裾野を拡げることに使命を感じ、全国の自治体や地域金融機関と連携した「FVC地方創生ファンド」を通じたベンチャー支援に全力で取り組む。案件発掘から投資育成、ファンド組成まで幅広く経験。複数投資先企業のEXIT実績あり。ビジコン審査員や創業に関するセミナー講師等も担う。
1.地域活性化とベンチャー支援に情熱を注ぐフューチャーベンチャーキャピタルの挑戦
吉田(地域ブランディング研究所:以下、地ブラ):まずは会社の概要や主な事業内容、これまでの歴史についてお話しいただけますか。
フューチャーベンチャーキャピタル(以下、FVC)は、主にベンチャー企業への資金供給を行う投資会社です。最近はベンチャー企業の中でも新しい技術やビジネスモデル等をもって事業に取り組む企業に対して「スタートアップ」という言葉がよく使われますが、FVCはそういった企業に対してVC(ベンチャーキャピタル)として長年資金を提供しています。
FVCは1998年に創業して、京都で設立されました。
京都は日本のベンチャー発祥の地とも言え、任天堂や京セラ、村田製作所といった京都の名だたる大企業も元々はベンチャーとしてスタートしています。
日本におけるVC業界は1990年代から成長し始めましたが、FVCはその中でも老舗として活動してきました。
90年代は「地方創生」という言葉はなかったのですが、ずっと地域活性化を大事にしてきました。
一般的なVCは、東京を中心にスタートアップに出資することが多いと思いますが、FVCは地域に焦点を当てて、全国的に投資活動をしています。
京都や東京だけでなく、岩手県や愛媛県にも拠点を構えて、地域に根ざした活動を続けています。
FVCのビジネスモデルは、直接ベンチャー企業やスタートアップに投資をするわけではなく、ファンドという仕組みを通じて資金供給をしています。
主に地域の金融機関、例えば地方銀行や信用金庫、信用組合などから資金を預かり、その資金を使って地域の有望なベンチャー企業に出資しています。
吉田(熱意ある地方創生ベンチャー連合:以下、熱ベン):石坂さんご自身の経歴、地域活性化に対する熱い思いをお聞かせください。また、現在はどんな役割を担っていますか?
FVCに勤めて5年半くらいになります。もともと地域活性化にすごく興味があって、大学から大学院まで地域経済や地域活性化について学んでいました。
地域活性化といってもいろいろな観点があるのですが、特に中小企業の経営者をサポートしたいという気持ちが、勉強する中で強くなってきましたね。
私のキャリアはこれが2社目で、最初はエヌエヌ生命保険(旧アイエヌジー生命保険)という保険会社にて中小企業向けの法人保険を扱っている会社で働いていました。
そこで法人保険の販売促進を担当していましたが、保険は基本的に、経営者にとって万が一の時の「守り」の手段ですよね。
もちろん意義は感じていたのですが、経営者が新しいことにチャレンジする姿をもっと応援したいなっていう気持ちが芽生えてきまして。
それで、たまたまベンチャーキャピタル業界を知る機会が合って、地域に根ざした投資活動をしている会社がフューチャーベンチャーキャピタルだと知って、すごく惹かれて入社しました。
現在は、日々ベンチャー企業を発掘して投資することと、新しいファンドを立ち上げることの2つが主な業務です。
2.地方に根ざした投資活動とスマートニッチ戦略
吉田(地ブラ):地方での話がありましたが、最近注目しているキーワードや取り組みはありますか?
最近注目というか、入社以来ずっと大切にしているキーワードとしては、「エクイティ」です。
出資、つまり資本という意味なのですが、エクイティの裾野を広げることを大事にしています。
一般的なベンチャーキャピタルは、財務リターンを最大化することが求められているので、基本的には上場を目指してスケールアップしていく企業、いわゆるユニコーンを目指す企業に出資しますよね。
でも、FVCは地域に根ざして、本当にその地域で輝いている会社にもリスクマネーを供給したいと思っています。
必ずしも上場を目指していないけど、技術的に優れていたり、ビジネスモデルとして面白い企業を応援したいです。
今のところ、投資先企業は450社くらいあって、そのうちの半分は上場を目指していない会社です。
こういった会社にも投資しているのが、FVCとしての特徴だと思います。
地域に根ざして、中長期的に成長していく企業をどんどん作っていきたいと考えて活動しています。
吉田(地ブラ):地方創生の分野では、色々と相談をするものの、なかなかスケールしないという話をよく耳にします。そんな中で、石坂さんが「可能性を感じて出資した」という事例はありますか?
最近投資したところで面白いなと思っている事例があります。長野県松本にある「xaxa(ザザ)」という会社です。
ちょうど今、仕事で松本市にいるのですが、この会社は高級ペットフードをオンラインで販売をしているスタートアップです。
既に市場で出回っている価格帯のペットフードを作って売るでは大企業に勝てないと思いますが、この会社は 1 食 約1,000円という高単価のペットフードを販売していて、私の昼ご飯よりも高いくらいです(笑)。
ペットがどんどん家族の一員として大切にされる今、その価格帯でもペットに高品質なフードを与えたいと思う人が増えてきています。
こういうニッチなマーケットに特化して事業を行う企業を「スマートニッチ」と表現、評価してFVC運用ファンドにて投資を行いました。上場を目指すマーケットサイズではないかもしれませんが、優れた商品やビジネスモデルに将来性を感じています。
上場を目指していない会社って、一般的なVCだとなかなか投資できないと思います。
でも、投資しないのはすごくもったいないなと思っていて。
この会社に投資を決めたもう一つの理由は、経営者の熱意がすごく伝わったことです。
同社代表は、ペット愛好家で、大学の教員もされていた女性の方です。高校生時代に古着屋を起業し、経営が面白くて博士号まで取得して大学教員になられたのですが、自分で起業したいと思い、長野県に U ターンしてこの事業を立ち上げたという経歴です。
その強い思いとか起業にかける意欲にとても惹かれて投資しましたね。
吉田(熱ベン):出資については、FVCさんが単独で行っているのか、あるいは地域金融機関との連携による地方創生ファンドを通じた形が中心なのか、どちらの側面が強いですか?また、投資会議などの場で、地域金融機関の意見が反映されることはありますか?
事例を紹介したいと思います。FVCの地方創生ファンドでは、長野県と連携した「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を運営していまして、当ファンドでは、長野県内のすべての金融機関等から出資してもらい、県内企業へ投資を行っています。
出資者とのコミュニケーションですが、投資決裁の場には同席していませんが、「こういうところを検討していますよ」といった情報はもちろん共有しています。投資した後も、「こういう理由で投資しました」ということを丁寧に説明したり、投資先企業と出資者との交流イベント等も企画実施したりしています。
吉田(熱ベン):地域の金融機関にも適切に情報が共有されているということでしょうか。地方創生ファンドとしての役割も十分に果たしているのですね。
おっしゃる通りです。FVCの地方創生ファンドは「お金を出してもらって終わり」ではなく、その後の情報提供・交流も大事にしています。
定量的な情報だけでなく、定性的な情報も含めてしっかり伝えることで、投資先企業が融資取引に繋がると良い連携になると思っています。地域金融機関が単にファンドへお金を出すだけではなく、その先の融資などで協力できる機会があれば良いという思いがあるので、その前提として情報提供は惜しみなく行っています。
3.地域金融機関との連携で生まれるシナジーと独自の出口戦略
吉田(熱ベン):投資先企業と出資者である地域金融機関との間で、何らかのシナジーや協力関係が生まれた具体的な事例はどういったものですか?
投資先企業とファンド出資者である地域金融機関の間でシナジーが生まれたケースはいくつかありますね。
たとえば、出資後に融資取引につながった事例が挙げられます。
融資は主に過去の実績を見て判断されることが一般的で、実績がない段階だと融資を受けるのがまだまだ難しいことが多いと感じています。
融資だとなかなか現状では支援できないものの、面白いビジネスモデルのため支援できないのはもったいないといった考えから、地域金融機関がファンドへ企業を紹介してくれることが頻繁にあり、そこから私たちが事業性を見て投資を行っています。
その後、企業が黒字化し、一定の成果を出したタイミングで地域金融機関がこれまでの実績を評価して融資を提供する、という流れが生まれるのです。これってすごく良いシナジーだと思います。
もう一つの例は、販路開拓での協力です。
たとえば、先ほどお話したペットフードの会社では、地元の信用金庫が取引先を紹介してくれたり、展示会への出展を手配してくれたりしています。
「こういう食品を扱っている会社があるので連携できないか」など、商品開発や販売面でも地域金融機関が積極的に関わってくれることがあり、これもシナジーとして非常に有効です。
吉田(地ブラ):地域企業間のシナジーについて、とても興味深く伺いました。VCとして、上場を目指さない企業にも出資されているとのことですが、投資の回収については何年後を目安とされているのか、また投資先企業を選定する際の基準はありますか?
まず上場を目指している企業の場合は、ファンドの運用期限内に上場できるかどうかをしっかり見ます。
ファンドって基本的に10年でやっているので、ざっくり言えば、その期間内に上場できる見込みがあるかどうかが重要です。
一方、上場を目指していない企業は、同じようにファンドの期間内に回収できる見込みがあるかどうかが重要です。また、回収手法は売上・利益を積み上げてもらい、積み上がった利益(内部留保)を原資に株式を買い戻してもらうという手法となります。
具体的には、投資を行い回収したい金額に対して、投資してから最初は赤字を掘るかもしれませんが、3年から5年くらいで売上や利益が積み上がって回収できそうかどうかを見定めています。また、投資をして終了ではなく、投資期間中は私たちも全力で支援します。
したがって、カフェ等の飲食業への投資は正直難しいです。飲食業や理美容といった既存の事業において、3年から5年で大きな利益を出すのは厳しいですし、そういうビジネスは融資でしっかり対応できる領域ですね。
なので、FVCの地方創生ファンドがオリジナリティをもって支援している企業ターゲットは、スモールビジネスとユニコーン企業の間くらいの「ローカルベンチャー」や「スマートニッチ」と呼ばれるビジネスです。
4.経営者支援と継続的サポート、投資後の伴走型支援とは
吉田(地ブラ):とても興味深いですね。実際に投資を受けた企業に対して、石坂さんたちはどのような支援をされていますか。単に資金を提供するだけでなく、アドバイスやネットワークの紹介など、幅広いサポートもされますか?
まずは、投資先企業との定期ミーティングを大事にしています。
企業によって頻度はまちまちですが、2週間から月に1回、定期的に話をする場を設けています。
経営者の話をしっかり聞くことが一番大事だと思っています。
事業の進捗やニーズを把握するだけでなく、経営者のメンタル面や表情からもいろいろ見えてくることがあります。
なので、対話を通じて経営者の状況をしっかりと理解するようにしています。
加えて、適切なアドバイスをしたり、FVCだけでは対応できない部分が出てきたときは他の専門家を紹介したりもします。
例えば、マーケティングで困っていると言われても、自分自身がマーケティング領域のプロフェッショナルではないので、FVCが持っているネットワークを活かして外部の専門家を紹介したり、融資が必要な場合は、出資者でもある金融機関を紹介したりしています。
話をしっかり聞いて、適切なサポート先につなぐことを重視している、という感じですね。
吉田(地ブラ):以前、本当に困難な状況の中で複数のVCに相談した際、途中で話が止まったり、連絡が途絶えてしまうことがあり、結果的に何も進展しなかった経験がありました。だからこそ、今のお話のように、支援を継続的に行う仕組みが整っているという点に、非常に感銘を受けました。
それは、VCではよくあることだと思います。
やっぱり「本当に上場までスケールできるのか?」というところで、事業は面白くてもスケーラビリティが足りないと判断されて投資を断られることが多いです。
そうすると、たらい回しにされて、結局資金調達ができないというケースも本当に多いですね。
吉田(熱ベン):つまり、地ブラのように「上場はしない」と明言している企業であっても、事業の将来性や社会的なインパクトが見込まれる場合には、FVCさんとして投資を検討されることがあるということなのですね。
そうですね。そういう企業もしっかり応援したいと思っています。
5.FVCが求める人材像と広がる連携の可能性
吉田(熱ベン):石坂さんご自身がこのお仕事をされる中で、「これが楽しい」と感じるのはどのような瞬間ですか?
実は学生時代に塾の先生をやっていたことがあるのですが、人の成長を支援するのがすごく好きです。
学習塾でも、生徒が目標の大学に合格したりすると、すごく嬉しかったです。
今の仕事も似たようなところがあって、素晴らしい経営者に投資して、その後支援を続けて、企業が成長して良い投資回収ができると、本当にやりがいを感じます。
あと、地域金融機関は、どうしてもこれまでのやり方から抜け出せない部分があるのではと感じます。
従来のやり方から抜け出せず、新しい事業に対して融資が難しいことが多くあると思います。事業性評価融資という言葉が普及してきましたが、何でもかんでも事業をしっかり目利きができるかと言うと、難しいと思います。
そういう中で、例えばFVCの地方創生ファンドからの投資が呼び水となって、融資と抱き合わせで企業へ資金提供を行えたりすると、自分たちが役に立てていると感じる瞬間があって、「この仕事をやっていて良かったな」と思いますね。
自分の仕事がちゃんと価値を提供できていると感じられる瞬間です。
吉田(熱ベン):この企画がFVCさんの採用活動にも良い影響を与えられたらと思っていますが、実際にFVCさんが求める「一緒に働きたい」と思う人物像とは、どのような方ですか?
私の意見も入ってしまいますが、キーワードとして「地域活性化」や「地方創生」に熱い思いを持っている人ですね。
そういう思いがあると、それが仕事を続ける原動力になると思います。
それに加えて、人が好きで、好奇心が強い人がいいですね。
我々はいろんな経営者と会うので、興味を持って話を聞ける人、コミュニケーション能力、つまり聞く力と伝える力がある人が理想です。
人や事業に興味を持てる好奇心が強い人を求めています。
吉田(熱ベン):地ブラの人材と重なる部分があるかもしれませんね。地方を支援したいという想いを持った人が集まるのは、とても素晴らしいことだと思います。それに加えて、金融機関以外との連携も視野に入れていますか?
もちろんです。投資先企業を支援するという点では、いろんな方と連携したいです。
会社として組む場合もありますし、担当者同士のつながりもありますが、幅広く模索していきたいですね。
地ブラさんともぜひぜひ。我々だけでは支援できることに当然限界があるので、各領域で活躍する様々な方と組めるとすごく心強いです。
6.地域中小企業の第二創業「従業員承継」という新たな選択肢
吉田(熱ベン):地域のさまざまな企業に出資されている中で、「ここを改善すればさらに良くなるのでは」と感じられる点はどういったものですか?
FVCの投資先企業は「01(ゼロイチ)の支援ステージが多い」と思われがちですが、実際には地域に行けば行くほど「第二創業」のような案件が結構あります。
つまり、既存の中小企業の事業者にもどんどんファンドを活用してほしいと思っています。
長年事業を続けてきたけれど、今の事業だと行き詰まっていて、これから先を考えると新しいことにチャレンジしないといけない、と思っている経営者の方って多いのではないでしょうか。
特に「アトツギ」と言われる方は、そのような思いはより強いかと思います。
ただ、そういう方々って「ファンドを使う」という選択肢があまり浮かばないことが多いのではないでしょうか。
そこで、そういう中小企業の経営者が第二創業や新規事業の立ち上げという文脈で、FVCの地方創生ファンドをもっと活用してくれたら、地域の経済活性化がさらに進むと思います。
ゼロから新しい企業を起こすよりも、既存の企業が新たな事業に乗り出す方が地域へのインパクトは大きいかもしれません。
吉田(熱ベン):地域では事業承継に関する課題がよく話題になりますが、そういった相談を受けることはありますか?
たくさんありますね。FVCはベンチャーキャピタルですが、事業承継のお手伝いもしています。
特に力を入れているのが従業員承継をはじめとする第三者承継のサポートですね。
オーナーさんがM&Aを考えていると、場合によってはその会社が地域から離れてしまうこともありますよね。
一方、「灯台下暗し」で会社に番頭さん的な人がいて、「経営に興味がある」というケースもあるものの、経営者が気づいていないケースもあります。これって本当にもったいないと思います。
そういった人がいるのにM&Aで外部に譲渡してしまうのは、地域のためにももったいない。
FVCの地方創生ファンドでは、そういう従業員、例えば番頭さんや部長さんが円滑に事業を引き継げるようサポートしています。
具体的には、長年続いている会社だと企業価値が高くなっていて、経営者(オーナー)の株をその会社の番頭さんが引き受けるとなると、何千万・何億円ものお金が必要になることがあります。でも、番頭さんはサラリーマンなので、個人で何千万・何億円も借りるのは難しいと思います。
もし住宅ローンが残っている状態なら、さらに何千万・何億円も借り入れるのは心理的なハードルがかなり高いです。
そこで、極端に言うと経営者(オーナー)の株をFVCの地方創生ファンドが99%分取得して、残り1%を後継者である番頭さんが引き受けるようにします。ちなみに、FVCの地方創生ファンドが株式を取得する際、無議決権株式とし、経営権は有しない状態としています。後継者は1%の取得で100%の経営権を有することが理論上できます。
これで番頭さんにとって100%すべきだった負担が1%で済むので、負担をかなり抑えた形で株式の事業承継ができます。こうしたサポートをしています。
ただ、まだ取り組み始めたばかりなので、こういった仕組みをもっと全国に広めていきたいと考えています。
中小企業における事業承継について、経営者(オーナー)からすると理想は親族内での事業承継だと思います。一方、継ぐ人がいないのでいきりなりM&Aになってしまうのはもったいなく、その間に「従業員承継」という選択肢を示して広めていきたいと考えています。
吉田(地ブラ):その後、最終的にはどのような形になるのでしょうか?従業員の方がそのまま株を保有し続ける形になりますか?
ファンドとしての出口の部分は、最終的には会社に株を買い戻してもらう形になります。
大体7年とか8年くらい、ファンドの満期まで株式保有かつ後継者の支援を行い、出口のタイミングで自社株買いしてもらって株式を売却します
7.行政との連携と地域ファンドの可能性、地方創生の具体策
吉田(熱ベン):先ほどお話に出ていた地方創生の取り組みに近いアプローチですね。それに関連して、行政との連携についてはどのように考えていますか?地域経済を活性化する上で、行政は非常に重要なプレイヤーだと思うのですが。
行政は間違いなく重要なプレイヤーだと思っています。
例えば、全国各地域の自治体で創業支援施策の1つとして創業初期の企業を対象に「アクセラレーションプログラム」を開催している事例があると思います。同プログラムを通じて一生懸命支援した企業が、様々な理由で東京へ流出してしまうのは、行政側からすると考えさせられると思います。また、ベンチャー支援というと、行政はどうしてもユニコーン企業を生み出していくといった目線になることもあるかと思います。否定は全くしませんが、一方で地域資源を活用して地域に根差し、コツコツ成長していく企業、FVCがよく使う言葉で言うと「ローカルベンチャー」や「スマートニッチ」な企業をいかにたくさん生み出していくかも重要だと考えます。
そこで、我々は行政と連携した「地方創生ファンド」を作ることを提案することで、行政側の既存施策の補完や新しい視座を与えることができると信じています。また、行政連携したファンドを行政へ提案する際、ファンドに公金を直接入れるのではなく、あくまで側面から支援する形を提案しています。
公金を入れないことで、自治体も参加しやすいというメリットがあります。
このモデルの先行事例は、2022年4月に長野県と連携して立ち上げた「信州スタートアップ・承継支援ファンド」となります。FVCは今後この事例を全国に広めていきたいと考えています。したがって、全国各自治体とファンド組成を見据えた連携をしていきたいですね。
吉田(熱ベン):それに加えて、「ここまで対応していただけるとありがたい」と感じるようなリクエストはありますか?
投資先企業の育成に関して、もっと行政のリソースを活用できる部分があるのかなと思います。
例えば、スタートアップやベンチャーが実証実験を行える場をもっと提供してもらえると良いかもしれません。
あと、地域の優良企業とのマッチングももっと行われると良いですね。
行政のネットワークを使って企業同士をつなげたり、場を作ったりすることを積極的にやってもらえると、投資先企業の成長につながると思います。
吉田(熱ベン):ただ、行政は公平性を重視する必要があり、すべての人や企業に対して同じように対応することが求められる場面が多いですよね。そんな中で、FVCさんがその部分をサポートされると、より効果的な取り組みになりそうですね。
おっしゃる通りです。そこはFVCとしてもしっかりサポートできればと思いますし、もっと出来ること、やっていかなければならないことがあると感じています。他方で、行政と連携して作るファンドという位置づけだからこそ、そのファンドで投資している企業に対して、行政として積極的に支援しやすいのではといった見方もできます。
吉田(熱ベン):地域内での積極的な取り組みが重要なポイントになりますよね。ちなみに、国に対して期待されていることや要望はありますか?
「スタートアップ育成5か年計画」からわかるように国もスタートアップ支援に本腰を入れています。今後、日本を代表するユニコーン企業はより多く輩出されていくと思います。一方、地域に根差した「ローカルベンチャー」や「スマートニッチ」な企業をどう地域から多く輩出していくのか、そのための質的・量的な資金支援も大事だと考えています。したがって、私たちが取組むようなコンセプトのファンドへの出資や何かしらの支援があると大変ありがたいなと考えます。
吉田(熱ベン):例えば、浜松市が行っているような「VCが出資すれば市も出資する」といった仕組みは、国レベルでも導入すると非常に面白い取り組みになると思います。
8.上場を目指さない投資と支援プロセス
吉田(地ブラ):先ほど触れた、上場での回収を目的としない投資の手法についてですが、実際にVC業界でそのような取り組みを行っている企業はどれくらいありますか?その中で、FVCさんが特に持っている強みや、他社と異なるポイントはありますか?
確かに、そういうことをやっている会社はありますが、多くの場合は社債などの形で資金供給していますね。
資本、つまりエクイティで上場を目指していない企業にもリスクマネーを供給しているのは、私の知る限りほんの一握りだと思います。
少なくともFVCは元祖ではないでしょうか。そのスタイルを築いてきたという自負があります。
吉田(熱ベン):これまでFVCさんが行ってきた投資の考え方、スタンスについて、今後もそれを継続していくという方針を持たれていますか?
もちろんです。我々はその姿勢を大切にしてきましたし、地域に根差した投資を行う以上、これからも変わらず続けていきます。
吉田(地ブラ):私ももっと早くFVCさんのことを知りたかったです。熱ベンに関わる企業や組織の方々も、今日のお話を聞いて関心を持たれるのではないかと思います。経営者にとっては迅速な資金調達が重要なケースも多いと思いますが、早ければどれくらいのスケジュールで資金が着金するのか、そのプロセスについて教えてください。また、FVCさんにとって熱ベンとの連携がどのような価値があると考えているのか教えて下さい。
最初にお会いしてから投資の実行までに大体3〜4ヶ月くらいかかることが多いです。
やっぱり最初の面談から準備や検討を経て投資を実行するまで、どうしてもそれくらいの時間がかかってしまいますね。
興味を持たれた方は、まずはカジュアルな形で面談させていただきたいと思っています。
事業計画をがっちり固めて「これで投資してください!」と持ってこられるよりも、今どの段階にいるか、どんな成長を考えているか、というラフな感じで話を進めたいですし、気軽に声をかけていただけるとありがたいです。
我々も事業計画を一緒に作って、お互い納得してから投資をするスタンスです。
なので、最初はリラックスした雰囲気で話をさせていただけると嬉しいですね。
また、熱ベンとの連携を通じて一番ありがたいのは、全国様々な自治体とのネットワークができることです。
全国様々な自治体とつながることで、素晴らしい経営者との出会いが増えたり、自治体の施策にも我々の活動を生かしてもらえる機会が増えるのは本当にありがたいです。
吉田(熱ベン):地域の人材不足は非常に深刻な課題だと思いますが、その影響はベンチャー企業にも及ぶのではないでしょうか。こうした人材不足に対して、FVCさんとして何か解決策を提供したり、支援したりできる取り組みはありますか?
現時点で会社としてしっかりとしたソリューションを提供できているわけではないのですが、私としては「副業人材の活用」に注目しています。
我々の投資先企業は地方にも多いので、人材問題の深刻さを痛感しています。地方で優秀な人材を採用したり、東京から人を呼んでくるのは難しい部分があります。
なので、副業をうまく活用して、投資先企業の成長を支える仕組みを今後真剣に考えていきたいです。
吉田(熱ベン):それは、FVCさんが直接サービスとして提供されるのでしょうか?それとも、副業コンサルタントを支援する事業者との連携という形になりますか?
まずは事業者との連携を重視したいと思っていて、投資先企業のニーズに合った副業人材を紹介できるような体制を作れると良いですね。私としての考えにはなりますが。
吉田(熱ベン):地域の企業は、外部の人材を活用することにあまり慣れていない場合が多いので、まずは副業やスポットでのコンサルタントを試してもらい、「これほどの効果があるのか!」と実感していただくところから始めるのが大切ですよね。
そうですね。そのためにも、すでに取り組んでいる自治体もありますが、そういう企業を後押しするような支援メニューがあるといいかもしれませんね。
吉田(地ブラ):投資して数年経たタイミングで株を買い戻すというお話がありましたが、その期間内に利益を出すために努力される点はよく理解できました。ただし、すべての事業が順調に利益を創出できるとは限らないと思います。そのような場合、ファンドの期限を迎えた後は、どのような対応をされますか?株式を引き続き保有する形になるのですか?
すごく大事な質問ですね。ファンドは基本的に10年で運用しています。
予定通りにいかなかった場合は、ファンドの期限まではしっかり粘り強く支援を継続します。ただ、それでも利益が積み上がらなかった場合は、極端な話ですが、残念ながら1円で株式を経営者へ買取っていただくこともあります。投資にはリスクとリターンが付き物です。
吉田(地ブラ):ファンドの運用期間が後半に差し掛かるにつれて、利益を出していない企業に対するプレッシャーがより強まりそうですね。また、スタートアップ向けに伝えたいことがあれば一言お願いします。
そうですね。ただプレッシャーを単にかけるのではなく、しっかり寄り添って支援するスタンが大事だと思っています。
スタートアップ向けに伝えたいことは、資金調達はVCだけが選択肢ではないということです。何でもかんでもVCから資金調達しようとするよりも、融資や補助金など、さまざまな方法があります。
それぞれのメリットとデメリットを見極めて、最適な方法を選んでほしいですね。
そして、まずは気軽に相談してほしいというのも伝えたいです。これが今日伝えたかったことです。
吉田(熱ベン):資金調達と一口に言っても、地域の方々の多くは「基本的には融資が中心」という考えを持たれている場合が多いですよね。一方で、熱ベンに参加している企業は「投資が唯一の選択肢」と思い込んでいることが少なくありません。そう考えると、選択肢が十分に活用されていないようにも感じられて、少しもったいない気がします。
VCの者として、「投資」という選択肢があることをもっと伝えていきたいですし、スタートアップの方々にもそれぞれの資金調達方法にはメリットとデメリットがあるということをしっかり見てほしいと思います。
それぞれの選択肢を知って、自分たちに最適な方法を選んでいくことが大事ですからね。
吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事
1975年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009 年の横須賀市長選挙で当選し、2013 年に再選。2017 年に退任するまでの8 年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている
取材後コメント
実は、石坂さんが20歳の頃から個人的に知っているのですが、いろんな地域に入り込み、いろんな課題に関わる起業家に揉まれて、どんどん成長している姿を目の当たりにしまして、感慨深かったです(笑)。FVCのビジネスモデルも学びが多く、1県1ファンドが当たり前になるといいなぁと思いました。
吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役
HP: https://chibra.co.jp/
1981年広島県生まれ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。
取材後コメント
こんなVCがあったのかと驚きでした。スタートアップで大きな悩みの1つが資金繰り。銀行からの借り入れをお願いしてもなかなか実績がないと厳しく、どれだけ熱意で伝えても将来価値に関してはなかなか算出してくれない。逆に一般的なVCに相談するといつ上場するのかそのために一定のスケールが求められ、出資者のために動くことになってしまう。そんな中で、FVCさんのモデルはその間の一番欲しいところをついてくれている印象でした。地方創生ってなかなか高利益創出が難しい中でこの出資モデルは重宝されるなと感じました。自分も早く会っておきたかったです。。。