news

【連載企画】地域経済を支える新たな仕組みとエネルギー調達の未来~熱ベン吉田・地ブラ吉田が深堀り!地方創世の秘訣その④~

ゲストプロフィール

株式会社エナーバンク 
セールスPM本部ジェネラルマネジャー
山之内 禎生(やまのうち さだお)氏

1995年に建物総合管理会社(現:オリックス・ファシリティーズ株式会社)に入社し、設備技術者としての経験を積んだ後、福岡支店長に就任。2012年には、大阪「グランフロント大阪」北館の管理業務PMとして、業務全般やアセットマネジメント、予算管理を担当。2018年より新規事業構築を専任し、省エネルギーサービスやエネルギーの面的利用、BM業務のDX、IoT化などの事業を推進。2022年からは株式会社エナーバンクのセールスPM本部ジェネラルマネジャーとして参画している。保有資格はビル経営管理士、認定ファシリティマネジャー、第3種電気主任技術者、第一種電気工事士など多数。

1. エナーバンクの概要と山之内氏の経歴

吉田(地域ブランディング研究所:以下、地ブラ):まずは会社の概要や主な事業内容、山之内さんについてお話しいただけますか。

私たち株式会社エナーバンクは、「エネルギーをもっとシンプルに」というビジョンを掲げ、エネルギー市場の透明化や効率化を目指したサービスを提供しています。特に、電力調達の最適化を支援する「エネオク」(電力調達リバースオークションサービス)の仕組みを活用し、自治体や民間企業のコスト最適化と脱炭素化をサポートしています。

当社のバリューの一つに「Be プロフェッショナル」という考えがあり、個々が専門性を高めながら協力し、新しい価値を創造していくというものです。私自身も、この理念を大切にしながら日々業務に取り組んでいます。

私は、新卒でオリックス・ファシリティーズ(旧:関西メンテナンス)に入社し、約27年間勤務しました。オリックスグループの不動産セグメントに属し、主に建物の管理を担当していました。技術職としてスタートし、営業や管理業務を経験した後、大阪駅前の「グランフロント大阪」の立ち上げに約3年間携わりました。その後、会社全体の技術統括を務め、若手への技術継承やコンプライアンス向上に取り組み、最終的には新規事業の開発を担当し、その業務の中でエナーバンクと出会いました。

当時、エナーバンクは創業1期目で、売上もほぼない状態でしたが、電力自由化が進む中で、不動産所有者向けの電力切り替えサービスを検討していた私は、エナーバンクのリバースオークションの仕組みに可能性を感じました。こうしてアライアンスを組み、約1年かけて協力関係を築き、現在も前職とはエナーバンクとしての関係が続いています。

2022年2月にエナーバンクへ転職し、現在はセールス・PM本部に所属しています。営業が獲得した案件の運営を統括する責任者を務めており、主に官公庁向けの業務が9割を占めています。地方創生に関連するプロジェクトにも多く関わっています。

エナーバンクは2018年に設立され、現在7期目を迎え、まもなく8期目に入る予定です。

吉田(熱意ある地方創生ベンチャー連合:以下、熱ベン):山之内さんは第3種電気主任技術者の資格をお持ちなんですね。この資格があれば独立という選択肢もあったのではないですか?

前職の経験から考えると、それなりにやれる自信はあります。ただ、建物管業界全体の将来性を考えたときに、成長の余地が限られていると感じました。技術者の高齢化など資格保持者の不足はどの業界でも共通の課題となっていますが、近年ロボット化やAIによる業務効率化が進み、人手不足の解消も進んでいます。

私が携わっていたビル管理や不動産管理の業界は、安定はしているものの、大きな成長が期待しにくいと感じましたし、長年その業界にいた経験から将来の展望を考えたときに、より成長性が高く、新しい取り組みに挑戦できる環境に魅力を感じ、エナーバンクを選びました。

現在の業務では資格を直接活かす機会は少ないですが、もったいないと感じることもあります。ビル管理の仕事もそうですが、専門知識と資格が求められる分野では、資格があることでお客様への説明に説得力が増します。資格だけでは実務経験が伴わないと信頼を得にくく、逆に経験だけでは資格がないと「この人は言っているだけなのでは?」と思われてしまうこともあるため、私は自身の発言に重みを持たせるために資格を取得しました。これは、当社のバリューの一つである「Be プロフェッショナル」の考え方にも通じる部分です。

2. エナーバンクのサービスと事業展開

吉田(地ブラ):現在、順調に成長されているとのことですが、事業の展開について詳しく教えていただけますか?

現在、当社では主に4つのサービスを展開しています。

1.エネオク:電力調達DXサービスで、電力リバースオークションを活用したメイン事業。これは現在も当社の中核を担っています。

2.エネパーク:情報配信サイトで、2023年4月にリリースしました。

3.グリーンチケット:環境活動の取引を支援するサービスです。

4.ソラレコ:太陽光発電のマッチングサービスです。

これらのサービスはもともと個別に運営されていましたが、最終的に情報配信機能を統合し、「エネパーク」として展開する形となりました。

基本的には、ほとんどのサービスを無料で提供していますが、非化石証書の購入に関しては販売サービスとなるため、有料です。

吉田(地ブラ):事業の成長について、売上の推移も交えながらご説明いただけますか?

エネオクの仕組みをご説明する前に、まずサービスの成長についてお話しします。売上の推移を見ると、エネオクのサービス拡大がよく分かります。

私が入社したのは2022年頃で、ちょうど成長が加速し始めた時期でしたが、2021年11月頃からすでに電力価格や燃料取引価格が高騰しており、さらに2022年2月のロシアのウクライナ侵攻がその動きを加速させました。この影響で、2022年度から2023年度にかけて電力料金が大幅に上昇しただけでなく、みなし小売電気事業者(旧大手電力会社)を含め多くの小売電気事業者が新規受付を停止しました。この結果多くの電力難民が発生しましたが、弊社はエネオクを通じてコストの上り幅を極力最小限となるようにつとめましたが、一時的に当社の成長も緩やかになりました。

その後、電力価格の高騰が落ち着き始めると、多くの企業が電力コストの見直しを進めるようになり、加えて脱炭素化のニーズが拡大したことや、小売電気事業者が多種多様な電力メニューを提供し適正な比較が非常に困難になったことから当社のサービス利用が急増しました。その結果、現在の総取引額は1,319億円に達しています。

エネオクのビジネスモデルは、オークションを開催し、小売電気事業者が契約に至った際に手数料をいただく仕組みです。そのため、総取引額がそのまま売上に直結するわけではありませんが、オークションの規模と利用頻度の増加が、事業の成長を示しています。

今後も、電力市場の変化に柔軟に対応しながら、より多くの企業や自治体にサービスを提供していきたいと考えています。また、脱炭素化やエネルギーの最適化が求められる中で、AIを活用した電力調達の最適化や、企業のカーボンニュートラル推進を支援する新たなサービスの開発にも積極的に取り組んでいく予定です。

吉田(地ブラ):現在、1万3,000施設がサービスを利用しているとのことですが、そのうち自治体関連の施設はどのくらいの割合を占めるのでしょうか?また、民間企業の場合は、どのような業種が多いですか?

最新の正確なデータは確認中ですが、現時点では自治体関連の施設が全体の約7割、民間施設が約3割を占めていると考えています。自治体は学校、庁舎、公民館、図書館など、幅広い施設を管理しており、その数が非常に多いため、自然と割合が高くなります。

例えば、関西エリアで私が最近関わった自治体では、高圧電力契約の建物が約50件、低圧電力契約の建物が約250件ありました。一方、民間事業者でこれほど多くの建物を所有しているケースは少なく、1社あたりの施設数では自治体の方が圧倒的に多いのが特徴です。

特定の社名は控えますが、大手家電量販店やホームセンターなどがサービスを利用し、特に家電量販店は全国規模で展開しているため、数十店舗単位での利用が一般的です。ホームセンターも比較的多くの店舗を展開し、全国的に規模の大きい業態です。また、デリバリー系のピザチェーンなども、小規模店舗を多数抱えているため、施設数としては多くなります。

民間企業と自治体の施設数を比較すると、自治体の方が圧倒的に多いため、当社のサービスを利用する施設の割合も自然と自治体が高くなっています。また、自治体は再生可能エネルギー(再エネ)導入への関心が非常に高く、オークションの際に「再エネ指定」をするケースがほとんどです。この傾向は自治体全体に共通しており、導入に積極的な姿勢が見られます。

一方、民間企業では、大手企業を除くと再エネ導入の優先度はそれほど高くない印象です。大手企業はESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点から、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの取り組みを求められることが多いため、再エネ導入に積極的です。しかし、中小企業においては、導入コストの負担や短期的な経済合理性を優先する傾向があり、再エネへの関心が比較的低いのが現状です。

吉田(熱ベン):再エネを指定してオークションを行った場合、コストは上がりますか? それとも、最近ではコスト削減につながるケースもあるのでしょうか?

一般的には、再エネ電力を指定するとコストが上がる傾向にあります。なぜなら、通常の電力と再エネ電力の大きな違いは、「環境価値」が付加される点にあるからです。

よく「再エネ電力に切り替えると、自社に届く電気そのものが100%再生可能エネルギーになる」と思われがちですが、実際にはそうではありません。発電された電気は、送配電網を通じて供給されるため、原子力・火力・再エネなど、さまざまな電源が混ざっています。

では、どのように「再エネ電力」と認識されるのかというと、再エネ発電所でつくられた電力には「環境価値」が発電した電気量と同時同量で発生していると定義されており、その価値が証書(非化石証書など)としてデータ管理されています。これにより、サービスの利用者(弊社では需要家と呼んでいます)におくる電力量と同量の(実際にはCo2換算したうえで相殺)環境価値を付随させることで「この電力は再エネ由来である」と証明できる仕組みになっています。したがって、通常の電力料金に加えて環境価値分のコストが上乗せされるため、再エネ電力は割高になりやすいのです。

しかし、オークションを活用することで、再エネ電力の価格が抑えられるケースも増えています。当社のオークションでは、標準的な再エネ電力の価格を基準とした上で入札が行われるため、電力会社間の競争が働き、コスト削減につながる可能性があります。

特に、地域の大手電力会社(みなし小売電気事業者)の標準料金と比較すると、オークションを通じた場合、再エネ電力でもコストが下がるケースが多くなっています。つまり、一般的には割高になると思われがちな再エネ電力への切り替えも、オークションの仕組みを活用することで競争力のある価格で調達できるということです。

3. リバースオークションの仕組みと効果

吉田(熱ベン):なるほど。再エネの価格がオークションによって抑えられる可能性があるということですね。そのリバースオークションの仕組みについても、詳しく説明していただけますか?

リバースオークションとは、自治体や企業などのサービス利用者が希望条件を提示し、それに対して複数の電力事業者が入札を行い、価格を競り下げる方式のリバースオークション方式です。一般的なオークションと異なり、価格が下がる方向で競争が進むため、発注者はより低価格で最適な電力調達が可能になります。

導入事例:兵庫県I市のケース

実際に自治体での導入事例も増えており、例えば兵庫県I市ではエネオクを活用した結果、年間の電力コストを約20%削減することができ、公共施設の電力コスト削減に大きく貢献しています。また、エネオクの利用は2021年からとなるので、世界的な高騰もエネオク利用で乗り越えてきました。

リバースオークションの流れ

1.アカウント登録と条件設定

法人がウェブ上でアカウントを登録し、電力調達の希望条件を入力。

2.オークションの作成と開始

提出された情報をもとにオークションを作成し、約7営業日間の入札期間を設定。

3.入札と価格競争の仕組み

小売電気事業者が入札を行い、他社の入札価格を確認しながら、より低い価格で再入札が可能。

例:「A社が500万円で入札 → B社が480万円で再入札」→ 競争が進むほど価格が下がる。

4.契約の決定と透明性

期間中、事業者は何度でも再入札可能。エネオクでは入札価格がリアルタイムでオープンになり、価格競争の透明性が確保され、発注者は最適な価格で契約できる可能性が高くなる。

特に、電力調達のプロセスを透明性、公平性を担保しながら効率化したい自治体や法人にとって、エネオクは調達業務の合理化を実現する有効な手段となっています。


吉田(地ブラ):契約の主体は自治体になると思うのですが、随意契約になるのでしょうか?見積もりの履歴管理や適正性の確保はどのように対応されていますか?

基本的には随意契約となりますが、調達額や自治体の方針によっては一般競争入札の対象となるケースもあります。例えば、調達金額がWTO(世界貿易機関)の基準額を超える場合は、一般競争入札が求められることが一般的です。

直近では、ある県でWTO基準の一般競争入札を適用した形でオークションを実施しました。通常の入札手続きを踏まえつつ、当社のオークションシステムを活用し、競争性の確保と手続きの合理化を両立させた形です。自治体の調達ルールに応じた対応が可能なため、随意契約だけでなく、一般競争入札の一部として組み込むこともできます。

オークションの開催履歴や入札状況は、すべてシステム上で可視化されます。自治体は、どの小売電気事業者がどの金額で入札したかをリアルタイムで確認でき、過去の入札履歴もデータとして記録・管理されます。そのため、随意契約であっても透明性の高い調達が可能であり、監査や説明責任の対応にも役立ちます。

吉田(熱ベン):自治体の施設には学校やスポーツ施設、浄水場など多様な種類があり、それぞれ異なる予算で管理されていると思いますが、一括での調達は難しいのではないでしょうか?

確かに施設ごとに異なる予算で管理されているため、個別に契約しているケースもありますが、同じ会計単位に属する施設が複数ある場合、それらをまとめて調達することでコスト削減の効果が期待できるため、一括での入札を行う自治体もあります。

庁舎管理部門が所管する施設をまとめて入札するケースが多いですが、場合によっては水道局や教育委員会などの施設を含めてオークションを実施することも可能です。この際、会計単位ごとに最適な価格で入札できるよう、条件を調整しています。

オークションは全体で一括して実施しつつ、落札時には会計部局ごとの条件に基づいた価格提示が可能な仕組みを採用しています。例えば、低圧契約の施設が250件ある場合、それぞれの施設でメリットが出るような条件を設定し、すべての施設でコスト削減が実現できる場合にのみ落札する、という仕組みを取ることも可能です。こうした調整には手間がかかりますが、自治体ごとに柔軟に対応し、最適な価格での調達を支援しています。

吉田(熱ベン):確かにとても魅力的な話ですが、「うちはそんなのやったことないし、慣れていない」という自治体も多いと思います。特に、一般的な入札は価格を競り上げる形なので、リバースオークション(競り下げ)の仕組みに戸惑うケースもあるのではないでしょうか?

その点については、まず「これまでの入札や見積もり合わせのプロセスを、エネオクの仕組みに当てはめて運用できること」を説明しています。仕組み自体はシンプルですが、自治体内の関係部署との調整や、随意契約の法的根拠をどのように整理するかといった部分で悩まれるケースが多いですね。

私たちが自治体内部の調整を直接進めることはできませんが、これまでエネオクを導入した自治体の事例をもとに、サポートを行っています。例えば、導入時の庁内調整の進め方、随意契約を適用する際の法的根拠、入札の際の課題とその対応策などをまとめたデータを活用しており、現在20以上の自治体のアンケートデータをもとに、相互に情報を共有できる仕組みを整えています。

また、エネパーク(電力調達に関する情報を提供するプラットフォーム)のチャット機能を活用し、実際に導入した自治体が、これから導入を検討している自治体の質問に答えられる仕組みを作っています。このようなサポート体制により、導入のハードルを下げるとともに、自治体間でのノウハウ共有が自然と進んでいる状況です。結果として、エネオクの導入が自治体間で広がっていく流れが生まれています。

吉田(地ブラ):エネオクの仕組みでは、収益は小売電気事業者からの手数料によって成り立っていますよね? つまり、自治体から直接お金をもらうわけではない。そうなると、自治体とどのような契約を結び、どんな取り決めをするのでしょうか?

私たちのサービスは基本的に無料で提供しています。そのため、自治体が「使いたい」と思えば、ウェブ上でアカウントを作成するだけで利用可能です。自治体との取り決めの方法としては、主に以下の3つがあります。

1.利用規約の同意:基本的にはWEBプロダクト上でアカウント作成し、利用規約に同意するだけでサービスを利用できます。

2.同意書の取得:WEB上のアカウント作成だけでは不十分と考える自治体もあるため、個別に同意書を取得するケースがあります。

3.連携協定の締結:より広範な情報配信や協力関係を築くために、連携協定を結ぶ場合もあります。

また、一部の自治体では、リバースオークションの業務委託契約を締結することもありますが、その場合でも契約金額は0円での締結となります。

利用規約の同意のみでサービスを利用している自治体もありますが、契約形態は自治体ごとに異なります。ただし、追加の負担が発生しないよう配慮した形で提供することが多いです。

自治体と民間企業の大きな違いは、入札や見積もり合わせを行う際に「仕様書」の作成が必要になる点です。エネオクを利用する際には、仕様書の内容を適切に更新する必要があるため、「よく知らないまま使っている」ということはありません。

さらに、仕様書の作成支援も無料で提供しています。そのため、エネオクを活用する自治体は、事前にしっかりと仕様を整えた上で利用されているケースがほとんどです。

4. 地方創生とエネルギー調達の関係

吉田(地ブラ):現在の取引状況について教えてください。また、エナーバンクのサービスは地方創生とどのように関わっているのでしょうか?

現在、私たちは官公庁や自治体を中心に取引を進めています。取引先のリストには、特にエネルギーコストの最適化を重視している自治体が多く含まれています。さらに、地域の民間事業者と連携して事業を進めている自治体もあり、それらの地域では、エネルギーコスト削減の取り組みがより活発になっています。

2025年3月28日には九都県市と「九都県市と事業者向け再生可能エネルギー電力の共同購入支援事業に関する協定」を取り交わし関東圏では大規模な再エネ電力共同オークションが確定されました。関西でも3月中に2つ、4月に2つの協定が締結予定です 再エネ電力が太陽光発電設備の共同調達も、民間事業者と公共施設を含めた形で事業を展開する予定です。

※九都県市とは埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市で構成された首脳会議です。

私たちのサービスは、特産品開発など地域振興を目的としたプロジェクトとは異なります。しかし、自治体や地域の民間企業が直面している「エネルギーコストの最適な調達」という課題に対応することで、結果的に地域の持続可能性に貢献していると考えています。

特に2022年の電力価格高騰以降、自治体や企業にとって「どのタイミングで、どの方法で電力を調達するのが最適なのか」が非常に難しい問題になっています。しかし、エネルギー市場に関する最新の情報が十分に共有されておらず、地方自治体や企業にとって最適な調達判断を行うのは難しいのが現状です。

そこで、私たちのオークションシステムを活用することで、自治体だけでなく地域の民間事業者も最新の電力調達情報を得ながら、コストを抑えた調達が可能になります。

吉田(地ブラ):具体的にどのような調達方法を提供していますか?

私たちは、以下の3つの共同調達の仕組みを提供しています。

1.エネオク(再エネ電力調達)

リバースオークションを活用し、再生可能エネルギー由来の電力を最適な価格で調達できる仕組みを提供。

2.ソラレコ(太陽光発電設備の共同調達)

施設に太陽光発電設備を導入するための調達サポート。

3.非化石証書の共同調達

電力会社との契約はそのままに、環境価値を加えることで「再エネ電力」としての認定を受ける方法。

官公庁では政策的な義務として、民間企業ではCSR(企業の社会的責任)やサプライチェーンの要請として、再エネ導入のニーズが高まっています。しかし、多くの中小企業では「専門の担当者を配置する余裕がない」という課題もあります。

そこで、エネオクを利用すれば、無料で最新の電力市場の動向や最適な調達方法に関する情報を得ながら、コスト削減の可能性も高まるというメリットを提供できます。

現在、各地で共同調達を進めています。今後も新たな協定締結を推進し、持続可能なエネルギー利用を広げていきます。

吉田(熱ベン):共同調達の話が出ましたが、例えば長崎なら九州電力、大阪なら関西電力といったように、自治体ごとに地域の電力会社がありますよね。自治体の中には「地元に発電所がある」「地域新電力を立ち上げている」など、独自の事情を持つところもあると思いますが、その点についてどのように対応されているのでしょうか?

まさにおっしゃる通りで、地元に発電所を持つ自治体や、地域新電力を設立している自治体もあります。また、ゴミ処理場を活用したバイオマス発電など、独自のグリーン電力を持つケースもありますね。

私たちは、特定の事業者への切り替えを推奨する立場ではなく、各自治体の状況に応じた最適な選択肢を提供しています。例えば、ある自治体では、すでに地域新電力を利用して電力調達には課題がないものの、地域の民間事業者向けにグリーン電力を普及させたいという目的で共同オークションを導入しました。地域新電力も入札者として参加することも可能です。

自治体ごとにニーズは異なりますが、それぞれの状況に応じた柔軟な選択肢を提供することが、私たちの役割だと考えています。

吉田(熱ベン):なるほど。自治体ごとの事情に合わせて柔軟に対応されているわけですね。ただ、もう一点気になるのが、電力自由化の際に多くの新規小売電気事業者が参入し、その中には供給が続けられなくなった事業者もありました。そうした背景から、「電力×ベンチャー=怪しい」といった固定概念が根付いている部分もあるかと思います。この点について、どのように信頼を得てこられたのでしょうか?

そうですね。現在、私たちのパートナー企業は50社ほどありますが、電力価格が高騰した際に倒産した事業者はありません。ただし、一部の事業者が高圧電力の供給から撤退したケースはありました。経営が行き詰まったわけではなく、事業戦略上の判断として撤退を選択したものです。電力自由化の流れの中で、新規参入事業者の状況が変化することは避けられませんが、私たちはプラットフォームとして、そうしたリスクを理解した上で適切な選択ができるよう支援しています。

具体的には、自治体や企業に対して以下のような説明を行い、信頼を得る取り組みを進めています。

1.高騰リスクの軽減策の説明

近年、小売電気事業者だけでなく、大手電力会社(関西電力・東京電力など)も、電力価格の変動リスクを消費者がヘッジできる料金メニューを提供しています。

例えば、

・価格変動リスクは低いがやや割高な「固定価格プラン」

・価格変動リスクはあるが長期的にはコストが抑えられる可能性がある「市場連動型プラン」

など、複数の選択肢があることを丁寧に説明し、リスクの理解を深めていただいています。

2.オークションの透明性の確保

オークションに参加する小売電気事業者は、必要に応じて一定のフィルターをかけることが可能です。具体的には、財務状況や過去の実績をもとに審査し、信頼性の高い事業者のみを対象とすることで、リスクを最小限に抑えています。

それでも「新電力は不安だ」と感じる自治体の方がいらっしゃるのも事実です。その場合は、料金メニューの違いや選択肢を分かりやすく説明し、透明性を確保した形で選択できることをお伝えすることで、納得感を持ってご利用いただけるよう努めています。

吉田(地ブラ):ここまでお話を伺って、とても魅力的な仕組みだと感じました。では、仮に自治体や民間企業がエネオクを利用するとして、最低どのくらいの規模からオークションにエントリーできるのでしょうか?また、一度オークションで契約した場合、どのくらいの頻度で再度オークションを行うケースが多いのでしょうか?

エネオクは低圧の1施設からでも利用可能で、年間の電気料金が100万円に満たないような小規模な施設でも対象となるため、自治体だけでなく、民間企業も幅広く活用できます。家庭向けは対象外ですが、法人であれば規模に関係なく利用可能です。例えば、小規模なクリニック、美容院、飲食店、個人経営の小売店などでもエネオクを活用できますが規約にて一定の条件はあります。 

オークションの実施頻度については、自治体は原則として毎年実施するケースが多いですが、長期契約を希望する自治体では2年に1回のケースもあります。民間企業についてもさまざまで、大手企業は毎年オークションを実施する傾向がありますが、2年に1回や3年に1回のケースもあります。

私たちとしては、どのタイミングでもオークションを実施できる体制を整えているため、契約更新のスケジュールに合わせて柔軟に対応できます。また、小売電気事業者が撤退する場合など、契約先を見直す必要が出てきた際には、いち早く情報を提供し、オークションの実施をサポートしています。

吉田(地ブラ):小売電気事業者の撤退リスクについては、確かにイメージしやすいですね。現時点ではそうしたリスクは発生していないということですが、それ以外に考えられるリスクはありますか?

そうですね。私たちはオークションのプラットフォームを運営しており、契約自体は自治体や企業(需要家)と小売電気事業者との相対契約になります。そのため、私たちが契約内容に直接介入することはありませんが、以下のようなリスクが考えられます。

1.契約内容の認識違い

オークション開催時に、需要家が希望する契約条件を明確に伝えていないと、小売電気事業者が誤った前提で入札してしまう可能性があります。その結果、契約締結時に「この条件を追加したい」といった要望が出て交渉が長引くケースもあります。

2.プラットフォームの信頼性

私たちはマッチングを提供する立場ですが、一定の信頼性を確保するため、パートナー企業には独自の審査を実施しています。信頼できる事業者との取引を推奨し、オークションが円滑に進むようサポート。こうしたリスクを最小限に抑えるため、オークション設計時には細かな条件の確認を行い、需要家と小売電気事業者の間で認識のズレが生じないよう注意を払っています。

5. 今後の展望とエネルギー市場の動向

吉田(地ブラ):最後に、業界の展望についてお聞きします。アメリカではトランプ大統領が再び就任しました。エネルギー政策においても、環境重視の流れが変わる可能性があると感じていますが、その影響についてどのように見ていますか?

トランプ政権が再びパリ協定からの離脱を決定し、これが最も大きな影響の一つとして考えられます。ただ、私たちはグリーン電力を前提としたサービスではなく、電力調達の最適化が主軸のため、仮に世界の潮流が変わったとしても、直接的な影響はそれほど大きくないと考えています。

むしろ、電力市場のボラティリティが激しくなるほど、私たちのサービスによる最適化の価値が高まると考えています。

また、トランプ氏の「石油採掘の促進」発言も注目すべき点です。脱炭素、化石燃料からの脱却という点からは相反してしまいますが、もしアメリカの石油生産が増えれば、日本国内のエネルギー価格が低下する可能性があります。現在、日本のエネルギー輸入は海外のさまざまな国に依存していますが、アメリカからの直接輸入が増えれば、輸入コストの削減につながると考えられます。

電力価格に最も大きな影響を与えるのは、日本国内の再エネ、化石燃料発電、原子力発電のバランスを考えるエネルギーミックスとなります。再エネだけでは成立しづらい国土環境のため、より安全な原子力発電の運用を行えることが今後の電力価格を左右する最大の要因と考えます。電力停電を発生させないために電所で発電する電力と一般家庭を含め電力を使用する側の量を30分単位で同一にさせる必要があります(同時同量といいます)。再生可能エネルギーは発電設備としては自然環境に左右されるため非常に不安定な電源となります。昼夜問わず最低限必要なベース電力は安定して発電できる原子力発電所が担い、天候や時間、曜日によって変動する電力は火力発電所が調整力として稼働しています。前段のとおり再エネ発電所は不安定な電源のため、この不安定差を吸収するのも火力発電所や最近ですと一部の系統蓄電池などが担っていきます。デマンドレスポンスなどは、同時同量を行うための手段(調整力)として需要家の電気使用を調整したり、需要家がもつ発電設備を稼働させて調整力にするしくみです。このようなエネルギーミックスを行うことで安定した電気を使用できる環境があるわけですが、その安定を保つためのコストとして様々な仕組みがつくられ、その負担を消費者側に転嫁される仕組みが作られています。毎年のようにこの仕組みが変わり、大手をふくめ小売電気事業者の料金メニューが変更されています。需要家は、昨年どうだったのか、来年はどうなるかなど最新の情報を取得、整理して、比較するのは、非常に困難になっています。 

私たちはそんな変動環境について常に追いつき、正しい情報を整理し、最適な選択肢を提供することが私たちの重要な役割になっています。この状況が続く限り、私たちのサービスの価値は今後も高まり続けると考えています。

田(地ブラ):価格変動が続くことで、エネオクのようなサービスの必要性がさらに増していくわけですね。エネルギー市場の不安定さが続く中、電力調達の透明性を高め、企業や自治体が適正な価格で電力を確保できる仕組みがますます重要になってくると感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

吉田雄人/一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事
1975年生れ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアにて3年弱勤務。退職後、早稲田大学大学院(政治学修士)に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に当選。2009 年の横須賀市長選挙で当選し、2013 年に再選。2017 年に退任するまでの8 年間、完全無所属を貫いた。その後、「GR(ガバメント・リレーションズ):社会課題解決のための政治行政との関係構築の手法」を軸に、コンサルテーションを民間企業に行うGlocal Government Relationz 株式会社を設立し、代表取締役に就任。一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合では、2020年より代表理事を務めている。

取材後コメント: 自治体に予算を求めない方法で、電力を安く購入することができる『電力購入のリバースオークション』。これって、調達の革命!と思わず両手を叩いてしまいました。年々値上がりする電気料金は、ボディーブローのように自治体の財政を圧迫しています。市役所庁舎だけでなく、学校や浄水場などでも大量に電気を使うので、このような仕組みがあると、本当に多くの自治体が助かると思います。発想の転換、大事ですね!

吉田博詞/株式会社地域ブランディング研究所 代表取締役 
HP: https://chibra.co.jp/
1981年広島県生れ。2013年(株)地域ブランディング研究所設立。 全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能に稼げる地域づくりを支援。 魅力的な日本の地域の文化・風習・景観・伝統工芸といったものを後世に残し、地域の文化・精神性を通して自己啓蒙につながる滞在プログラムの造成に携わる。

取材後コメント:電力の自由化というテーマ、興味あるけどどこからやったらいいのか?メリットはなんとなくわかるけど、リスクもありそうだし、準備の調整していくのも大変そうだな、気候変動問題も先行き読めないから今ではなさそうって先入観がある方も多いかと。今回のお話しは最新の業界動向や次の展望も伺え、リスク対策をしたうえで、環境配慮やコスト削減ができうる画期的なモデルだなと感じました。今後の躍進が楽しみです!